メンタルにゅーすVol.100

メンタルにゅーすヒエダ

 

創刊100号記念

2012年  Vol.100

CIL(自立生活センター)下関発行

ピア・ハート下関 編集 SAM

Tel(083)-263-2687

FAX(083)-263-2688

E-mail  s-cil@feel.ocn.ne.jp

URL  http://members.jcom.home.ne.jp/s-cil/

 皆様、お変わりありませんか?メンタルにゅーすも9年目100号の編集です。私が下関市の稗田病院の敷地内にある援護寮ヒエダに入所してから、私のことを一番よく知っている人が稗田病院にも敷地内の施設にもいなくなりました。唯一、援護寮でPSW(精神保健福祉士)だった土井氏には今もメンタルにゅーすを私が編集した後、校正してもらっています。援護寮ヒエダでは援護寮ヒエダ新聞を編集しました。私が援護寮を退所して地域社会で自立生活を始める人、続ける人たちのためにまた新たに「メンタルにゅーすヒエダ」を編集したいと土井氏に打診しましたことを今でも鮮やかに覚えています。彼は二つ返事で喜んでくれました。

 今回、メンタルにゅーすヒエダ100号記念として土井氏に原稿をお願いしました。

それでは土井氏のお話の始まり始まり・・・・・・・・・・・・・

                                         

 御紹介にあずかりました土井です。まずはSAMさん、この度は、『メンタルにゅーすヒエダ』の創刊100号おめでとうございます!導入部にも書かれていますが、私とSAMさんはかれこれ10年来のお付き合い。いまもSAMさんの書いた原稿を誰よりも先に読むとともに、校正させていただく間柄です。当初は、SAMさんの書いてきた初稿原稿をそれこそ「ずたずたに」する程赤ペンを入れたりしていた時期もありましたが、この月日ですっかりSAMさんも文章を書く事に慣れたようで、いまでは大幅なチェックを入れることもほとんどなくなりました。誤字脱字や「て・に・を・は」等の微調整をする以外は、初稿のままを皆さんが読まれている事が大半です。

 …などと思っていたら、この度は突如「100回記念になるから、一文書いて」と依頼が来て、「さて、最近自分自身が文章を書く事がないのでどうしようか…(まさか、いつも校正ばかりしていることへの意趣返しでは…と感ぐったりして、というのは冗談ですが(笑))」と思い、改めて前身の『援護寮ヒエダ新聞』そこからの発展型小冊子『精神障害者自立生活マニュアル』を見直してみて、この約10年間を振り返ってみました。

 冊子発行当時(冊子発行が2005(平成17)年)は、「障害者自立支援法」施行前という国内の障がい福祉法制度の一大転換期でした。それまでは、障がい種別毎に定められた法により個別のサービスが提供されるなど、各障がい種別間に見えない壁とでもいうべきものがある時代でした。そんな中出てきた自立支援法ですが、打ち出された理念(障がい種別に関わらず、均一のサービスを受けられる等)や、新たなサービス内容以上に当事者の方や家族の方にとって衝撃だったのは、突然打ち出された(ように感じる)「応益負担」というシステムだったように思います。

 施行前後の自立支援法に関しては、法整備の不備や内容説明等の諸問題もあり大混乱を招きました。特にそれまでの制度よりも、福祉サービスを受ける際に発生する自己負担金が大幅に増える可能性がクローズアップされ、実際に法が運用されてそれが現実のものになってからは、全国で集団訴訟が起きたり、将来を悲観した障がい当事者や家族が自殺する等の事件がマスコミに取り上げられるようになります。何故、このような問題が起きるような法律が、施行されたのでしょう?

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 そもそも障害者自立支援法が施行された目的とは何か。今ではその最大要因は財源問題だと言われています。その当時の支援費制度は、財源を圧迫するとして制度導入早々に見直しが検討されるようになりました。その結果@障がい者施策の一元化A利用者の利便性向上B就労支援の強化C支給決定のプロセスを明確化D安定的な財源の確保−等を柱にした改革案として出てきたのが同法だったのです。特にDは最重要課題とされ、それまでの「応能負担(サービスを受ける側の所得に応じて利用料を負担する仕組み)」から「応益負担(所得とは関係なくサービスを受ける側が一定の利用料を負担する仕組み)」に変更され、原則1割負担を定めたのでした。

 まず負担制度そのものの変更にも問題がありましたが、「応益負担」のベースになる世帯所得が、本人以外の世帯構成員全体を含むものだったりした事が、当初の大混乱を招く最大要因だったのは否めません。その事で費用負担が大幅に増える人が続出し、結果的に「自立支援法は法の下の平等を定めた憲法に違反する」として、全国各地での集団訴訟につながったのですから。その後の法改正により、世帯の単位が見直されたり、負担上限の見直しがあったりした事で、当初よりは大幅に費用負担は軽減されました。現在運用中の法律は、自立支援法そのものの廃止が既定路線のため、新法が制定されるまでの「つなぎ法」ですが、費用負担が軽減されたとはいえ、いまだ「応益負担」の仕組みは残されたままです。現在進められている「障害者総合福祉法」制定に向けた議論の中からこの8月に出てきた「骨格提言」では、これを従来の「応能負担」に戻す他、抜本的な改革ビジョンが示されています。しかし、早くも財源問題等を理由にした慎重意見が厚生労働省内部から出される等、今度の議論を経て同法がどのような内容になるかに注目が集まります。

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 この10年間、特に「自立支援法」への転換期の一連の流れを見ていて感じるのは、法改正の際の表面的な名目・理念は常に「福祉の向上」であるにも関わらず、いつもその背景に「財源問題」が見え隠れして、結果的に当事者や支援者にとって不満の残るものとなっている事です。今回の「障害者総合福祉法」の骨格提言では次の6つのポイントを提示しています@障がいのない市民との平等と公平A谷間や空白の解消B格差の是正C放置できない社会問題の解決D本人のニーズにあった支援サービスE安定した予算の確保−。いまだに@を挙げなければならない日本という国の状況に悲しみを覚えますが、それが現状なのですから仕方ありません。さらに、@からDまでの理念的な部分を実現させるためにはEが極めて重要ですが、先にも記載したように既にこのポイントをターゲットとした省内抵抗が出ているのが現状です。

 このような状況の中、私たち福祉関係者は、ただ福祉充実に関する予算確保等だけに声を挙げるだけでなく、もっと抜本的に社会の仕組みを変えていくための骨格的な提言をしていくべきなのかも知れません。右肩上がりの「成長、成長」で来た日本社会ですが、そのために残されたのは見せかけの成長を享受するために次世代に押し付けられた多大なる借金だけのように感じるのは私だけでしょうか?予算編成の多くを借金に頼るような行財政は果たして健全なのか?−。

 本当の福祉とは、本当の平等と公平とは何か?本当の幸福とは何か?−。物事の本質を見極めた上で、必要な要求をしていく姿勢そのものが、いま私たちにも求められているのかも知れないと考えながら、「骨格提言」が変な形に歪められた法改正にならないように注視していきたいと思っています。

(※文中、法律名称や印刷物等の固有名詞で使われる場合は「障害」記載を使用しています)

 

精神保健福祉士(所属先:特定非営利活動法人ピースオブマインド・はまゆう)

 土井 健一

 

 

 

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