メンタルにゅーすVol.102

メンタルにゅーすヒエダ

 

病識をつけるには

 

2012年  Vol.102

CIL(自立生活センター)下関発行

ピア・ハート下関 編集 SAM

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 一般に精神障碍者は入退院を繰り返すことが多いです。精神科領域ではこれを「回転ドア現象」と称して大変問題となっています。対人関係、環境のちょっとした変化で影響されやすく、それがストレスとなり、そのため生活が不規則になり通院しなくなったり、また服薬をしなくなります。こういったことは、病識を持つことでかなりの面で防ぐことができ、また、自分の精神状態をコントロールできるようになります。服薬を守らなければ、状態が悪くなり緩やかに病識がなくなります。

  病識とは、患者が自分の病気に対して認識を持つことです。精神科領域では特に患者が自分の精神状態を洞察し、病的なものと認めていく過程が、治療上重視されています。一般に精神病の初期には、「病識」はないのがふつうであり、寛解に近づくにつれて自分の病的な体験などを顧みて、「ああそうだったな」と考えてきます。病識の欠如は統合失調症の診断には重要なものとされます。また、これが出現して病気への正しい判断や認識が持てるようになると寛解とみなされています。

  **「寛解」:精神病では状態がよくなっても治癒とはいわず寛解という。これは現実検討能力・日常生活能力(ADL)を持てるようになったことともいえ、社会的寛解とか完全寛解とか、状態のレベルにより表現をかえたりします。

 精神障碍当事者が病識をつけるといってもなかなか難しいことです。私が病識をつけてきた経緯をお話してみます。ここでは、「周囲の人の対応方法(@A)・当事者の心掛け(BC)・一般論(D)」と分けて考えてみました。

〔周囲の人の対応方法〕@は、「妄想」がある場合、誤った思い込みや考えを持っているので、それを正すことが難しいのです。当事者の話をよく聞いてあげるように常に心がけておくことです。この段階では、傾聴するだけです。下手に同意することのないようにして下さい。当事者の気分が上がってくると大変です。Aは、幻聴を訴えている場合、当事者の話を頭ごなしに「それは幻聴です。」と言っても、当事者は誤った考えを認識しません。気長に傾聴して、介助者と当事者の信頼関係をとっていくことです。お互いに信頼関係をとるといっても根掘り葉掘り当事者に話を聞きだすことではありません。当事者にとって幻聴とは、他の人に聞こえない声や音が聞こえる症状です。その声の内容は当事者に話しかけたり、批評したり、批判したりする内容が多いのです。周囲の人は、健全者には幻聴も妄想もないと完全否定しないほうがいいのです。「聞こえることはよくわからないけど、つらいんだね」「今は大変だけど、問題は解決するよ」などと言ってあげてください。そうして当事者が少しずつ徐々に対処していく力を養っていくように見守っていくことです。

 周囲の人達は当事者にさまざまな接し方・働きかけで時間がかかると思いますが、上手く対応してください。必ず、当事者の変化のきっかけになります。その変化は、非常にゆっくり当事者に現れてきます。周りの人達は、当事者が必ず病識が身につくようになることを信じて待つことも大切なことです。

当事者が病識を身につけるのに必要な方法・働きかけは、ちょっとした周囲の人達の対応の仕方で身につくことがあります。私自身援護寮のスタッフの対応で少しずつ時間をかけて身についてきました。

 〔当事者の心掛け〕Bは服薬を守ることです。自分の調子がよくなったり、副作用が出たりして服薬をやめてしまうこともあります。服薬は精神症状の安定と再発予防の効果があります。Cは自分が入院する前の精神状態を振り返ってみることです。始終落ち着かない、イライラする、不安や緊張があるなどを洞察して何が原因で入院してしまったか考えてみることです。ですから、どういうふうに具合が悪くなったか、またその症状(前駆症状)を冷静に考えることができるか。そういった「冷静な目」を当事者自身が力を養うことです。

当事者の心掛け、病気と障碍の受容などちょっとしたことで予後の経過が変わります。また、当事者は心掛けて服薬を守り、自分自身を洞察し調子の悪くなるパターンや病気と障碍の対処法を考えてみてください。その手助けが、メンタルにゅーすのバックナンバーの中に必ずあるはずです。どうぞ参考にしてみてください。

 〔一般論〕Dは当事者は自分自身が病気であることを認めようとしません。私は、状態の安定しているときに、周囲の人達に聞いてみました。自分では、何故あんなにイライラしたり、不安になったり、幻聴・妄想などが増悪するのか、何故自分は精神科病院に入院しているのか、入退院を繰り返すのかとか色々考えました。自分が病気と認めたのは、精神科に入院していることと、自分の症状がイライラして、その症状を抑えるために精神安定剤を服薬していることです。健全な人はそのようにイライラすることもないし、服薬もしてないし、幻聴も妄想もないと私自身が勉強して分かったからです。

 

 病識を持つにはどうすればよいかポイントをまとめましたので参考にしてください。

病識を持つには

1.    目的

(1)    再発の予防(再入院にならないため)

(2)    状態の安定化

(3)    家族、他人に迷惑をかけない。

(4)    自分の信用を落とさない。

2.    精神状態の悪化の兆し及びその対策

(1)    自覚症状

       不眠

       注意集中困難(イライラする、じっとしておれない。)

       不安

       緊張

(2)    他覚症状

       落ち着きのなさ

       非協調性

       作業効率の低下

       他人の言うことをどれだけ冷静に聞き入れられるか。

(3)    自分の具合の悪くなったときを振り返り、そのパターンを認識しておく。

 例.無口になる,度を越えたおしゃべりになる、不安になる、風呂に入らない、

   自分の身をかまわなくなる。

(4)                自分なりの対策を考えておく。

   ・ 頓服

       幻聴〜Walkmanなどで幻聴より少し大きい音に調整してヘッドホンで音楽を聴く。

       横になる

眠る

主治医に診察を受けて、場合によっては処置してもらう。(投薬、注射等)

(5)    服薬

(6)    自分の飲んでいる薬がどんな作用(効果)があるか知っておく。

(7)    主治医や家族に自分の状態の悪いときの症状を聞いておく。

(8)    症状日記を書いて、それを振り返ってみる。

(9)    当事者同士で話し合ってみる。

10) 相談できる人を自分の周りにつくっておく。

11) 支援センターに相談する。

12) 規則正しい生活

13) 嵐が通り過ぎるまでじっとしておくのも一つの方法

14) 幻聴、妄想が発現してもあまりバタバタしない。

**拙著「精障碍害者自立生活マニュアル」より抜粋****

 

【編集後記】

 自分の症状の悪くなるパターンを認識して自分でどうにかできるときは、その対策を講じます。どうにもならないときは、主治医の診察を受けます。自分の信用を落としたり、他人に迷惑をかけないように必要があれば入院します。これからは、自分で調子を考えて、なるべく早い時期に火事で言えば「ボヤ」のときに自分で未然に防ぐようにする能力を身につけるようにします。自分のメンタルへルス対策や安静な毎日の生活、睡眠、服薬を守ることを心掛けて自分で自分の精神状態を管理します。それが病識であり入退院を繰り返さない方法ではないでしょうか。精神病の状態の落ち着いたときの寛解状態は火山で言えば休火山のときです。しかし、いつ爆発する(調子を崩す)かわからないので、普段から自分で心の中に「冷静な目」を持ち、服薬を守って生活することです。それが病識なのです。

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