メンタルにゅーすヒエダ

 

ピアカウンセリングの活用

2018115日  Vol.244

CIL(自立生活センター)下関発行

ピア・ハート下関(精神自助会) 編集 SAM

TEL(083)-263-2687

メンタルひえだFAX(083)-263-2688

E-mail  s-cil@feel.ocn.ne.jp

URL    http://blog.livedoor.jp/npo_light/archives/cat_8979.html

自立生活センターリングリング

船橋裕晶

1 精神障害者にとってのピアカウンセリング

 私の所属している神戸の自立生活センターリングリングでは5年前から「精神障害者のピアカウンセリング集中講座」を行なっています。

 精神障害者にとってピアカウンセリングを活用して生活していくことは、医学モデルから脱却し、精神障害を自分の一部と受け入れ、ありのままに生きていくことにとても役立ちます。また鬱や躁や妄想のあるとき、不安の時に助け合うことで孤独から解放されること、助け合う仲間が作れること、自分も仲間の力になれることを実感すること、感情を適切に解放することなど、取り組めば取り組むほどに自分の力になり、自立生活をするうえで大いに有効だと私は思います。

 精神障害者のピアカン集中講座のカリキュラムは基本的に普通のピアカン集中講座と同じです。鬱や躁や不安やあるいは幻聴や妄想といったものの感覚やしんどさがなかなかわかってもらわれず、苦しい思いをした人たちにとって、同じ障害を持っている人同士の対等な関係だからこそ、安心感が得られ気持ちが出しやすくなります。それこそピアカンの醍醐味でしょう。

 精神障害を持っている人でピアカンを始めたいという人には精神の講座は最初の窓口としてとても有効だと思います。しかし本当にエンパワメントされるには、精神障害者だけまとまり続けていても楽にはなりません。なぜなら世の中には様々な障害の人や健常者や女性や男性やLGBTや自分とは違う人種や考え方も生活も違う人たちも一緒に生きているからです。自分とは違う人たちを受入れ、助け合うことは大切なことですが、しかし精神障害を持つ私たちにとっては大きな課題でもあります。そういう意味でピアカンに慣れて来たら、障害種別を問わない色々な障害者の集まるピアカウンセリング講座を受けて欲しいです。障害を越えて相手に寄り添いながら話に注目し聞き合うことで、お互いが理解し助け合えば、必ずそれは自分のエンパワメントにも繋がります。そして自分自身がどう助けて欲しいかも気づいていくことが出来るかもしれません。いつも助けられる側の自分も、人を助けられることを体験し、対等な立場で人と付き合うことに取り組めると思います。それには一回講座を受けただけでなく続けていくことが必要です。

 ピアカウンセリング講座で知り合った参加者やリーダーと日常的に週1回、毎月2回など日時を決めて継続的に話の聴き合いをすることはとても良いです。僕もいろいろな講座で出会った人に声をかけ毎日1回はセッション(話の聴き合い)が出来るようにしています。レギュラーセッションと言います。多い時は一日3回、4回するときもあります。セッションをたくさんすることで自分でも気づかない、心に押し込めている感情を解放したり、思い込みをなくし気分が軽くなれば生活しやすくなります。セッションをすることは僕にとって仲間との繋がりを感じ助け合う実感を持てる大切な時間でもあります。定期的に行うレギュラーセッションの相手は精神障害者だけでなく様々な障害者としています。

 ピアカン講座の「障害について」がテーマの時間は、リーダーが自分の障害のことや、障害を持つことは悪いことではない、社会が変われば精神障害者はもっと生きやすくなるということを話したり、参加者が自分の障害で嫌だと思うことや社会から傷つけられたことを話したりします。同じ障害を持った人同士の聞きあいだからこそ安心して、差別された体験なども話すことができます。以前講座をやった時に「医者以外で初めて自分の気持ちを話すことが出来た」と言う人がいました。

また場合によってはどこかのコマで依存の話をしたり、自分が抱いているネガティヴな思考や傷ついたことなども時間をとってセッションすることもあります。

精神の講座は始まる前と終わった後で参加者の変化も大きいと感じます

 

2 感情の解放について

 ピアカンは感情の解放を促しますが、泣くことや怒ることが目的ではありません。例えば過去に辛い出来事あったけれど、その時は泣くことができず心に傷としてずっと残っている出来事をセッションの中で思い出して、あの時に泣けなかった代わりに今泣いて気持ちを解放します。そう言うセッションを繰り返していると、次第に心の傷が軽くなり、自信を持てる自分を取り戻すことができます。それがピアカンの目的です。感情を出すことは手段にすぎません。

 しかし精神障害者の場合、激しく感情の解放をするとなかなか戻りにくい場合があります。精神障害の特性として感情がコントロールできなかったり、気持ちを抑えることが出来なかったり、気分転換がうまく出来なかったりするためだと思います。だからといって感情の解放に取り組むのをやめるのではなく、自分のペースでいいので少しずつでも取り組んでいくことをします。

もしも感情が止まらなくなった時は、ピアカン講座中であれば、講座のテーマと関係なくサブリーダーとセッションしたり、休み時間にもリーダーとセッションをして気持ちを出し切るようにしたり、気持ちを切り替える簡単な質問(テンションバック)を何度もしたりします。しんどさばかりに注目がいってしまったり、過去の出来事にずっと捕らわれていつもしんどいところばかり気にしながら生きるのはとても苦しいですし、体調を悪くしたり、行動が制限されたりします。セッションが終わった後は忘れる、気分転換をする、しんどいことから注目を外すということも大事です。

しんどさから逃れるヒントは、注目して取り組んでとことん感情を解放するか、ひたすら気を逸らすか、大きく分けるとその二つです。感情をだしたあとはとても疲れます。ちょうど筋トレをしたあとに筋肉痛になるのと同じような感じです。

セッションの場は感情のトイレです。出していい場所です。しかし日常で出し続けることは危険だったり、しんどかったりします。「セッションの間だけ気持ちを出そう」と、客観的に決めておくことも大事です。

 

 また不思議ですが、しんどいことばかりに注目することでその人が安全を得ている場合があります。例えば人から言われてやらなければならないけれど、自分はやりたくないと言う時や、新しい環境に変わることが怖い時などはやりたくない理由をたくさん並べて逃げ道を用意して「出来ない自分」にしておくということが、自分を守ることになります。引きこもることもそうです。それは自分にとっての防衛です。防衛することは大事なので、これが悪いわけではありません。そうやって辛い時も賢く生きてきたのです。まずは自分に「よくやってきたね」と声をかけてあげたいですね。

 しかし、自由に生きようとするときには、自分からしんどい場所を抜け出ようと決める必要があります。抜け出るときに周りの助けはとても必要ですが、最後に決めるのは自分です。それが自分らしく生きることの前提になります。それは精神障害者だけでなく健常者も含めすべての人に当てはまります。

 セッションでは現実に今すぐ出来るかどうかは別として、自分がしんどさから抜けてみようと試みることが、エンパワーされ自信を取り戻していくことになります。人からの働きかけだけではエンワパーされることはありません。

セッションで大事なのは、長々としんどいことを話し続けるのではなく、怒りたいこと、笑いたいことなどそこに注目して出し切ることです。そのときに昔は助けがなかったので辛い思いをしたけれど、今は周りに助けてくれる人がたくさんいて昔とは状況が違うこと、やろうと思うえばやれること、大事な人がいることなど傷ついた当時とは違うことを思い出したり、ポジティヴな面に注目を向けることも大切です。自分には解決できる力があると感じながら、あえてネガティヴな感情に注目して解放すると良いセッションができ、しんどさが消えたり和らいだり、日常生活への切り替えもしやすくなります。

 ただ、向き合うのがどうしてもしんどいという場合には、無理して向き合う必要もありません。その場に仲間がいること、安心できることを感じることも大切なピアカンの一部です。ただ、その心地よさを感じることも大きな意味があります。

 

3 自立生活プログラム

 リングリングでは精神障害者だけの集団自立生活プログラムは行っていませんがピアカウンセリング講座と(つい)になる、自立する際に大事なプログラムです。長期間入院していたり、ずっと家にいた人にとって、社会生活を取り戻すことは大変なことです。そして自立するときにはたくさんの手助けが必要になります。例えば、年金や生活保護のこと、お金の管理のこと、住む家や場所のこと、精神障害者が使える制度のこと、不安やしんどいときにどうするか、薬や精神医療のこと、親との関係、介助者のこと、仕事のこと、日常生活で困ること、自立生活のことなど様々なテーマがあり、それらをピアカウンセリングの手法を使いながら具体的に当事者同士で体験しながら学んでいきます。リングリングでも今後集団自立生活プログラムを開きたいと思っています。

 相談に来られた人の中で個別自立生活プログラムをすることはあります。例えば介護制度をとりたいけれどどうしたらいいか、ヘルパーとどう付き合っていったらいいか、不安なときどう過ごすのか、所得保障にはどういうものがあるか、夢を叶えたいがどうしたらいいか、自立したいけれどどうしたらいいかなど相談に来られた人には一人一人いろいろなテーマがあります。例えば僕は家事援助などの介助を使いたいと思った時に、僕の安心できるピアカウンセラーを決めて個別自立生活プログラムをしてもらいました。区役所の窓口でどう言ったらいいか、聞き取り調査に来た人にはどう説明するか、主治医に求めること、介助者の募集の仕方、介助者との付き合い方、家事援助をどの曜日のどの時間につけるのか、介助者に何を頼みたいかなどをやりました。そのおかげで家事援助と移動介助を付けることが出来ました。大いに役にたっています。今でも困ったことがあると、僕のカウンセラーに自立生活プログラムをしてもらっています。

 大きな意味では自立生活プログラムはピアカウンセリングの一部ですが、ピアカウンセリングは精神的なサポートを自立生活プログラムが具体的な生活を体験しながら学ぶことを行います。

 

【編集後記】

 SAMはピアカウンセラーです。平成14年から2年くらいかけてピアカウンセリングの講座に参加して勉強しました。ピアカウンセリングの講座のリーダーの勉強も一通り勉強しましたが、講座のリーダーをした事はありません。なぜかというと、私は臨機応変な対応をすることができないからです。リーダーをすると講座の参加者全体に注意を払わなければならないからです。SAMは、残存症状として、幻聴と妄想が覚醒時一日中あります。自分の事で精一杯です。それだから、リーダーをやった事がありません。上司もそれが分かっているので、SAMにリーダーをしなさいとは言いません。グループ形式のピアカウンセリングはSAMにはできませんが、相談支援の場合の一対一のときはピアカウンセリングの手法を使う事があります。SAMにはできることとできないことがあります。裏方で縁の下の力持ちをすることが自分に向いているので、そのようにしています。

 ピアカウンセリング(略してピアカン)の講座はJIL(全国自立生活センター協議会)に加入しているCIL(自立生活センター)で行われているので、興味があれば自分の近くのCILかネットで調べればすぐに分かります。ピアカンは奥の深いもので、基本はお互いがあるテーマでカウンセラーとクライアントを交代しながら行います。傾聴できる事ができる人でないといけません。各講座は、カウンセリングのノウハウを勉強するのではないです。カウンセラーとクライアントを交代しながら傾聴して時間をとってセッションやロールプレイなどを行います。

トップページに戻る