メンタルにゅーす ヒエダ Vol.340 「44歳で「発達障害」診断された主婦の苦悩人生」 |
2022年4月5日 Vol.340 CIL(自立生活センター)下関発行 ピア・ハート下関(精神自助会) 編集 白夢(SAM) TEL(083)-263-2687 FAX(083)-263-2688 E-mail s-cil@feel.ocn.ne.jp URL http://blog.livedoor.jp/npo_light/archives/cat_8979.html |
ネットより参照2/18(日) 6:00配信東洋経済オンライン
https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20180218-00208887-toyo-soci&p=1
44歳で「発達障害」診断された主婦の苦悩人生
倉田(仮名)さんは44歳でADHDだと診断された。
独特なこだわりを持っていたりコミュニケーションに問題があったりするASD(自閉症スペクトラム障害/アスペルガー症候群)、多動で落ち着きのないADHD(注意欠陥・多動性障害)、知的な遅れがないのに読み書きや計算が困難なLD(学習障害)、これらを発達障害と呼ぶ。
今までは単なる「ちょっと変わった人」と思われてきた発達障害だが、前頭葉からの指令がうまくいかない、脳の特性であることが少しずつ認知され始めた。子どもの頃に親が気づいて病院を受診させるケースもあるが、最近では大人になって発達障害であることに気づく人も多い。
そんな発達障害により生きづらさを抱えている人のリアルに迫る本連載。第8回はADHDを抱える倉田美智子さん(仮名・45歳・主婦)。1対1の会話なら問題ないが、女子が数人集まってのいわゆるガールズトークが苦手で中高時代は不登校を経験。社会に出てからも職を転々としている。若い頃はまだ発達障害という言葉自体がなかったため、ただの困った人扱いをされて苦しんだ。この連載で初となる40代の倉田さんは、どんな生きづらさを抱えてきたのか話を聞いた。
■買い物の衝動をコントロールできない
約束時間ちょうどに倉田さんは現れた。手には買い物袋を抱えている。「ちょっと買い物をしてしまい、ギリギリになっちゃいました」。そう言いながらバタバタとカフェの席に着いた。
倉田さんは衝動性の症状があるため、買い物依存症に。一時期はリボ払いギリギリの額まで買い物をしてカードの返済に苦労したという。買い物依存症というと、無駄なものや高価なブランド物を次々に買い漁るイメージがあるが、倉田さんにとってそうではない。
「売り場で何かを見つけた際、必要なものと不要なものの判断ができないんです。インテリアとか、自分が目についたものはそのときの衝動で買ってしまいます。今はビーズでアクセサリーなどを作るハンドメイドが趣味なので、その材料を買うことが多いです。『必要なものだけ買いなさい』と言われても、私には全部必要なものに思えるんです。優先順位があいまいなんでしょうね」(倉田さん)
買い物の衝動をコントロールできないことに困ったのが、自分が発達障害ではないか疑ったきっかけだという。「23歳、『発達障害』の彼が抱える生きづらさ」(2017年11月22日配信)にも記載したが、ADHDの人はその衝動性からニコチンやアルコール、ギャンブルや性といった依存症に陥る確率が正常な人の2倍という研究結果が出ている。
倉田さんは25歳で結婚するも夫婦そろってうつ病を発症して共倒れとなり、35歳のときに離婚。38歳のとき再婚した。どちらの結婚でも子どもはもうけていない。現在の旦那さんは倉田さんの障害に理解があるため、彼女が衝動的な買い物をしてしまったときでも「あらら」と言うだけで決して責めない。倉田さんも、支払いは現金のみ、できるだけ売り場から離れる、ネット通販だったらパソコンやスマホを閉じるなど、気づいたら対策を取るようにしている。
小学生の頃から書道道具や体操服など、挙げるときりがないほど細々とした忘れ物が多かった。しかし、勉強はよくできた。 「授業を聞いているだけだと退屈しちゃうので、教科書は授業でやっている内容とは別のページを読んでいたり、別の本を読んだりしていました。そうすると、真面目に授業を受けていないと思った先生が私を当てるんですが、それでも私は答えられる。授業の進みが遅いなといつも感じていました」(倉田さん)
ところが、中学校に上がると反抗期のせいか、勉強のやる気もなくなってしまった。さらに、女子特有のグループが倉田さんには理解できなかった。にぎやかなグループには入れず、おとなしい子たちになんとなく混ざっていたが、中3の頃から登校拒否ぎみに。高校は進学校に入学するものの、授業のペースが速すぎてついていけない。ここでも登校拒否となり、先生の勧めで定時制の高校へ転校し、無事卒業した。
■ハードな仕事によりうつ病を発症
「当時はフリーター全盛期。高校卒業後は、高校のときから働いていたファミレスのキッチンでバイトをしてフリーター生活を送っていました。その後、22歳の頃、知人の紹介で保険会社の営業へ。そこでうつ病を発症してしまいました。飛び込み営業でノルマがあったので、根を詰めて頑張りすぎたのだと思います」(倉田さん)
しかし、そうするとすぐに生活保護を切られることになる。体調が完全に良くなったわけではないので、半年もするとまた働けなくなり生活保護を受給、という繰り返しだった。倉田さんは働きたいという意思を持っていたが、旦那さんのほうはうつがまったく良くならず、一向に働く気配がない。それが原因で離婚を決めた。
「生活保護に関しては今もバッシングをする人がいますよね。15〜16年前は、まだ今のようなブログが一般的ではなかったので、自分のホームページに『うつ病でいくら生活保護をもらっている』『家賃はいくら』『今月はちょっと働けた』などわりと明るい口調で書いたら、2ちゃんねるでものすごくたたかれました。
当時は今以上にうつ病に対する偏見がひどく、怠け者と思われていましたし、『本当は働けるのに不正受給している』と、大炎上しました。いきなり全部削除するのも格好がつかないので保護が打ち切られるときに『生活保護をやめるので、このホームページも削除します』と書き込んで消しました」(倉田さん)
■ADHDの症状は便利アイテムを利用して対策
うつやADHDの症状を抱えながら、職を転々としていた倉田さん。物流関係の仕事は何社か経験したが、仕事をうまく進められずに困ったことがあった。
「13時半になったらそのときやっている作業をいったん中断し、別の階に行って違う作業を行い、それが終わったらまたさっきまでやっていた業務に戻らないといけなかったのですが、私にはそれができない。作業に夢中になっていて、13時半に別の作業をやるということをすっかり忘れてしまっているんです。それで、本当に困って旦那に相談したところ、とても良いアイデアをくれました」(倉田さん)
そう言って差し出された倉田さんの左腕には白いGショックがはめられていた。
「そこの事務所内はセキュリティの関係上、携帯電話の持ち込みが禁止だったので、このGショックで13時半にアラームを設定してはどうか、と旦那が言ってくれて実行したんです。このライフハックのおかげで、仕事のすっぽかしはずいぶん減りました」(倉田さん)
Gショックのほかにも、発達障害の症状を緩和するために倉田さんが利用しているアイテムがある。それが、デジタル耳せんだ。聴覚過敏の症状があるので、音がキツく感じるときはデジタルでノイズをキャンセルする。お気に入りはソニーのブルートゥースノイズキャンセリングイヤフォンだが、すぐに充電が切れてしまうため、キングジムのデジタル耳栓も持ち歩いている。
倉田さんは仕事だけでなく職場の人間関係でも「やらかした!」と思うことがたびたびあった。
「多分、頭の回転は速いほうだと思うんです。そのせいで、何げない会話の中から、この人はどのあたりに住んでいて何人家族で、みたいな個人情報を収集してしまうんです。それで、『●●さん、どこそこに住んでいるんだよね? こないだ雪のとき大変じゃなかった?』と聞いてしまって、『しまった! 気持ち悪いと思われる』となったり……。人のプライベートに立ち入りすぎちゃうんです。
また、職場に届いた荷物で『最近この会社の荷物たくさん来るね』という話になったとき、「●●製作所という会社はどこそこにあって、何を作っていて……」と、自分が知っている情報をバーっとしゃべっちゃうんです。そして、言ったあとに、あっ、みんなしらけている……と感じてしまう。言いたい気持ちが抑えられないんです」(倉田さん)
昔からガールズトークが苦手だった倉田さんは、休憩室での休憩時間も苦痛だ。みんなが話している雑談に入れない。休憩室でつけっぱなしになっているテレビを見ながら、芸能人の話などを同僚がしているが、会話の内容に興味がないためただ聞いているだけになってしまう。職場の飲み会も、職場の人に気を遣って飲んだりしゃべったりしないといけないのがつらい。
そんな倉田さんがADHDだと診断されたのは1年ほど前。もともとうつ病で通っていた精神科で「私、発達障害ですか?」と自ら聞いたところ、ADHDだと診断された。自分はADHDなのではないかと疑い始めたのは、買い物依存症もあるが、もう1つは片付けられないのは発達障害の可能性があると書かれている『片づけられない女たち』サリ・ソルデン(WAVE出版)を読んだことだ。「29歳、有名私大卒の彼女がADHDで抱える苦悩」(2018年1月13日配信)で紹介した公務員の三浦さん(仮名)もこの本が受診のきっかけだった。
「私も片付けられないですし、家事もできません。昨年10月にうつ病がひどくなって会社をやめ、今は求職活動をしながら合間に家事をやったりやらなかったり。でも、掃除はルンバ、洗い物は食洗機、料理は週1回来てくれるヘルパーさんに作ってもらいます。洗濯はしょうがないのでやっています」(倉田さん)
■必要な人ほど支援が届いていない
現在、倉田さんは抗うつ薬や睡眠導入剤などの薬のほか、ADHDの薬であるコンサータを服用中。飲んでから12時間ほど効果を発揮する薬だ。「コンサータを飲み始めたのは、発達障害専門の病院に転院した去年の9月か10月頃からです。それまではストラテラを飲んでいたのですが、イライラや便秘などの副作用がひどく、コンサータに変えたら劇的に効いてびっくりしました。
24時間効くコンサータがあればいいのにと思ってしまうほどです。でも、毎日飲んでいると活動的になりすぎて疲れちゃうので、休薬日も作っています。休薬日は1日寝ているのですが、そうなると生活リズムが狂いがちです。だから、旦那が起きたら自分も起きる、旦那が寝たら自分も寝る、というように心掛けています」(倉田さん)
発達障害自体が知られていなかった20年ほど前までは、二次障害のうつで苦しみ、オーバードース(過量服薬)で3日間昏睡状態に陥ったこともあった。また、倉田さんの右手首には過去のリストカットによる白い線が何十本も走っていた。
「私のように40歳を過ぎてから診断が下りた人間って何も支援がないんです。子どものうちに気づいていれば、今は子ども向けの支援施設もありますが、ここまで育ってしまった大人には何もありません。だから、病院に行けば薬は出ますが、自分で何とかしないといけない状態。大人のための支援については、もう少し行政に頑張ってもらいたいです。
生活保護の話につながりますが、支援が必要な人ほど支援が届かない。私はここまで元気になれたから、自分では料理ができないことがわかってヘルパーさんに頼むことができています。本当にどうしようもないときは、ただ精神科の薬を飲むことだけしかできません」(倉田さん)
■みんな少しずつ違う
最後に、発達障害に関する誤った情報も飛び交う世間に対する思いを聞いた。
「別に、発達障害の個別の症状について詳しく知ってもらわなくてもかまいません。ただ、精神障害者もいれば知的障害者、身体障害者、難病指定の病気の人もいる。偏差値50の人間なんていなくて、みんな少しずつ違うということが認められる社会になってほしいです」(倉田さん)
40代になるまで、なぜ自分が衝動的な言動をとってしまうのか、なぜ普通の人と違って良好な対人関係がつくれないのか、なぜ仕事ができないのかわからずに悩み続けた彼女。しかし、今は理解のある旦那さんに支えられながら、困った症状には工夫と対策をこらしている。今後はこれらの症状と客観的に付き合っていけるのではないかと思った。
話しやすく親しみのある中年女性という印象が強かった倉田さん。事前に筆者のTwitterから、アクセサリーが好きだという情報を仕入れており、倉田さん手作りの美しいビーズのピアスをプレゼントしてくれた。耳につけると、透明なビーズがゆらゆらと揺れた。ビーズの向こうに透けて見えるのは、マイノリティな人がいてもいいと思われる世界であってほしい。
【編集後記】
そもそも、発達障碍とは何か。
《発達障碍とは、特定の疾患をさす言葉ではありません。
対人関係に問題を抱えたり、度を越して特定のものへのこだわりを持つなどの症状があるASD(自閉症スペクトラム障害)。多動、衝動的な行動、不注意などが特徴のADHDなどの総称です》
大人になるとどのような問題があるのか。臨床経験をもとに話す。
《まず発達障碍は珍しいものではありません。特に多いのはADHDです。
彼らは大きなパターンとして、学歴は高いのに、信じられないミスを多発する。
書類作りがうまくいかない、集中ができず人の話がきけないため、上司(特に口頭の指示)が頭に入ってこない。だから、同じ注意を繰り返される。マルチタスクをこなせず、パニック状態になる。
自分の語りたいことを語る。本人に悪気がないのに、人間関係を損なうといったことが挙げられます。発達障碍は基本的に子供時代から同じ症状が大人になっても続いているともいえます。》
岩波さんは近著『大人のADHD』(ちくま新書)のなかでこんなことを書いている。
学生時代までの不適応はみられないものの、就労してから問題が顕在化する例が少なくないし、実際、成人になって精神科を受診する場合は、職場での不適応がきっかけであることが多い。
ADHDの人たちの実生活におけるパフォーマンスの悪さやケアレスミスの多さは、周囲からは本人の問題として否定的に評価され、「真面目に取り組んでいない」「仕事にやる気がない」、あるいは「能力不足」とみなされることが多かった。
その結果、どうなったか。周囲からのストレスによって、うつ病やパニック発作などの症状を併発する人もでてきた。
周囲ができることをできないダメな人認定されてしまい、自分を追い詰め、結果として生きづらくなっているのだ。
発達障碍を包摂する人たちの悩みや苦労が分かったと思います。「共感」と言う言葉があります。われわれ人間は他人の気持ちを思いやる事ができます。健常な人や障碍種別が違う人には、普通に何でもできることがあります。しかし、障碍を持った人には上手く物事を処理できない、そのときにああ当事者は辛いのだろうなと「共感」してあげてください。時間を掛けて付き合ってください。「同情」じゃなくて、冷静に「共感」してあげてください。SAMも障碍種別が違うとその辛さが分からない事があります。
社会は様々な人が存在して形成されます。どうかマイノリティー(少数者)の気持ちも配慮された社会の形成、インクルーシブ社会の包括的で共生的な社会でありますようにSAMも下関市でCIL活動を続けていけたらなと思います。