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[精神当事者を抱える家族・親族のために]

資料作成日:2012/12/28()

資料作成者:CIL 下関 SAM

751-0872

山口県下関市秋根南町1丁目1-5

TEL 083-263-2687

FAX 083-263-2688

E-mail s-cil.y@feel.ocn.ne.jp

URL http://members.jcom.home.ne.jp/s-cil/

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はじめに

家族・親族の中から精神病に罹患した当事者が出現したら何をしたらいいのか・・・?

本書は、精神病の中の二大精神病である統合失調症(=精神分裂病)と躁うつ病に的を絞

って冊子を作りました。当事者である私が当事者の目線で「精神当事者を抱える家族・親

族のために」という家族・親族の啓発小冊子を作ろうと考えたものです。家族や親族の中

から精神の当事者が出現したら、どのように接したらいいのか頭の中はパニックに陥ると

思います。私の母は、何も分からなかったのに毎週日曜日に病院に面会に来てくれていま

した。そして、病状が休火山のように落ち着いて寛解してきたら、母は主治医に息子(SAM

の退院を願い出てくれました。

私が今現在考えるのは、息子や娘が甥や姪が孫たちが精神病を罹患したら、早期治療を

したほうが回復が早いし、重度の精神障碍になることが軽減します。多くの健全者が精神

障碍は稀な病気で自分や家族・親族達には縁のない病気と高を括(くく)っていませんか?

日本では統合失調症の当事者が約130 万人くらいいます。だいたい統合失調症の罹患率が

総人口の1 パーセントぐらいです。肝疾患の患者が70 万人くらいいます。統合失調症が

罹患しにくい病気だと一般の人が考えているようです。総人口の1 パーセントの罹患率で

考えるとありふれた病気です。統合失調症は人種・男女差・年齢(罹患率が高い年齢層は

1530 歳)・社会的地位・国・文化など世界中の国々での差はないです。

当事者の私が今考えると、服薬と通院を遵守して平静・平安・平穏な生活環境を作り出し

て生活すれば、地域社会で自立生活も難しくはありません。精神当事者の私は、援護寮で

社会復帰の為に様々な生活技術の訓練をして身に付けました。かといって生活技術をすべ

て身に付けないと自立生活が難しいという訳ではありません。実際に当事者が自立生活し

たいと考えた時、私達福祉従事者がその実現を叶える為に様々なサポートを行うというの

が理想的な型だと思いますが、皆さんはいかがお考えですか?

当事者のサポートは、一人一人千差万別です。様々なサポートを考えたとしても、それ

は支援者の良かれと思うサポートでなく、当事者の望むサポートでなくてはいけません。

そのため当事者の話を傾聴することが非常に大切な事です。多くの当事者が、これからも

地域社会で自立生活を目指して病院や施設から退院・退所してきます。一人でも多くの当

事者が地域社会で伸び伸びとした自立生活を実現できるように、病院・施設のスタッフが

サポートをしていければいいなと思います。私も、ピア・カウンセラーとして同じ地域社

会で生活しています。長く当事者へのサポートができるように、同じ地域社会で生活して

相談支援していければなと思います。

本書では当事者を抱える家族や親族の悩み、病気、接し方、環境、制度(精神障碍者保

健福祉手帳、障碍年金等)など最低限知っておかないといけないことをCIL(自立生活セ

ンター)下関で障碍者の自立生活支援をしている精神の当事者(ピア・カウンセラー)が

編集したものです。もっと、精神障碍について編集できればいいのですが、私としては必

要最低限の目標50 ページ以内で情報提供の試みを実現したいと熟慮したものです。下関

市内ではどの精神科病院、どの障碍福祉サービス事業所でも、一人でも多くの当事者の皆

さんが、地域社会で自立生活を送れるように日々努力しています。本書が、下関市が障碍

者の過ごしやすい地域となる一助になればと思います。

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目次

はじめに---------------------------------------------------------------------------------------------2

目次---------------------------------------------------------------------------------------------------3

1章.二大精神病-----------------------------------------------------------------------------------4

1-1.統合失調症-------------------------------------------------------------------------------4

1-2.躁うつ病----------------------------------------------------------------------------------8

2章.症状の悪化・再発の危険信号-----------------------------------------------------------12

2-1 精神症状の悪化のサイン-------------------------------------------------------------12

2-2.再発の危険信号-------------------------------------------------------------------------13

3章.精神障碍者との対応の仕方--------------------------------------------------------------14

3-1.躁状態の対応の仕方-------------------------------------------------------------------14

3-2.うつ状態の対応の仕方----------------------------------------------------------------16

3-3.精神障碍につながる行動特性-------------------------------------------------------17

3-4.精神障碍者との対応の仕方(コミュニケーションのコツ)----------------18

3-5.幻覚(幻聴・幻視など)がある人の接し方と理論的根拠-------------------19

3-6.妄想のある人の接し方と理論的根拠----------------------------------------------21

3-7.病識プログラム-------------------------------------------------------------------------23

3-8.精神障碍者支援の社会資源----------------------------------------------------------24

3-9.精神障碍者保健福祉手帳の制度----------------------------------------------------27

4章.制度(家族が精神病を発病したらやっておくこと)------------------------------28

1.自立支援医療-------------------------------------------------------------------------------28

2.精神障碍者保健福祉手帳の申請-------------------------------------------------------28

3.当事者に面会に行く人達の対応の仕方を決めておく----------------------------28

4.当事者の状態が安定したら以下のことを話してあげてください-------------28

5 障碍年金の請求. --------------------------------------------------------------------------28

6.家族への SAM からのお願い----------------------------------------------------------28

5章.就労--------------------------------------------------------------------------------------------30

5-1.統合失調症に見られやすい就労支援上の課題----------------------------------30

5-2.稗田病院デイケア----------------------------------------------------------------------31

5-3.グリーンファーム(障碍福祉サービス事業所)-------------------------------33

5-4.ひえだファクトリー(障碍福祉サービス事業所)----------------------------35

5-5.ピースオブマインド・はまゆう(障碍福祉サービス事業所)-------------37

参考文献---------------------------------------------------------------------------------------------39

あとがき---------------------------------------------------------------------------------------------40

解説---------------------------------------------------------------------------------------------------41

著者略歴---------------------------------------------------------------------------------------------43

協力機関---------------------------------------------------------------------------------------------44

**(注)もう既に法的な言葉で交付されている固有名詞は、いわゆる一般

に知られた「害」の字、それ以外は「碍」の字とする」

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1. 二大精神病

二大精神病といわれるのに統合失調症(精神分裂病)、躁うつ病があります。本冊

子では、二大精神病でお話を進めていこうと思います。私は、統合失調症です。自分

の病気や障碍を受け入れるのに20 年近くかかりました。3 回目の退院を機に稗田病院

敷地内の生活訓練施設援護寮ヒエダに入所してから、統合失調症の勉強を始めました。

20 年間、暗黒の闇の中を一人で歩いていたように思います。勉強して、初めて統合失

調症の実態を知りました。援護寮ヒエダ新聞を私が入所中の約3 年間毎月編集してい

ました。この新聞は、私が勉強したものを編集して作っていました。精神病では超メ

ジャーな病気の統合失調症と躁うつ病についてお話をします。私は、冷静になって統

合失調症を調べ、向き合って、知り合いの当事者に話を伺っていました。私は、この

広い日本で病気と障碍を受容して、対処して自立生活をしている当事者が必ずいると

考えていました。多くの精神の当事者に病気や障碍を共有するニュースレター「メン

タルにゅーすヒエダ」を編集していることもいい機会だと思っています。

1-1.統合失調症(精神分裂病)

統合失調症は100 人に1 人の割合で発症します。しかも、その多くは人生で輝かし

い青年期に発病し、その若者の人生を台無しにしてしまう大変な病気です。しかし、

早期発見、早期治療を行えば、病状や障碍は改善されます。問題は、この病気が正し

く理解されていないため、病気を重くし、本人・家族に不幸と苦しみを背負い込ませ

てしまうことです。

1.統合失調症

@ 事実

統合失調症は人生で最も輝かしい青年期に若者を襲う病気です

統合失調症は、通常1625 歳の若い人に好発(よく発症)します

治療が有効なことは確かです

早期診断と現代の治療による安定化によって予後(病気の経過)を著しく改

善させることができます

A 統合失調症は、決してまれな病気ではありませんし、絶対に統合失調症に罹らな

い(免疫のある)人は誰一人としていません

世界中のすべての人種、文化、社会階級でみられます

世界的にみて100 人に1 人がなるといわれています

B 発病頻度に男女差はありません

男性の好発(発症する割合が高い)年齢は、通常1620 歳です

女性の好発年齢は男性より遅く、通常2030 歳です

日本では治療を受けている人は入院32 万人、外来50 万人を含めて100 万人

以上と推定されています

「統合失調症の犠牲になった人だけでなく、家族や友人も様々な形で統合失調症の巻き

添えになります。そして彼らには、はかりしれないほど大きな苦しみがあるのです。」

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2.統合失調症とは何か

「統合失調症は、幻覚・妄想・思考やコミュニケーションの障碍、社会生活をうまく

営めなくなること、などによって特徴づけられます。」

@ この病気は、知識もあるふつうの人達の生活すべての過程を冒します。

A この病気は、感覚をゆがめるので何が現実で何が非現実なのかわからなくなりま

す。

B 適切なサポートさえ得られれば、統合失調症にかかった人もいかにして症状を治

療するかを学ぶことができ、そうすることによって十分に快適で実りある生活を

送ることが可能になります。

C たいていは薬物で治療できます。

3.統合失調症と暴力

統合失調症は地球上で最も大きく誤解されてきた病気の一つです。多くの人は、統合

失調症は人格の分裂が起こることを意味すると思っており、その思い込みは古いハリウ

ッド映画がルーツになっています。

統合失調症は「ジキルとハイド」や「イブの 3 つの顔」で描かれるように人格がばら

ばらに分裂するものではありません。本当に、重い統合失調症を持つ人の思考過程の障

碍が著しくなると、日々の生活での必要最小限のことすらできなくなってしまいます。

そんな状態で、とてもジキルとハイドのような「二重生活」なんてできるはずがありま

せん。

@「統合失調症は暴力的な狂人である。」という迷信が、大衆小説のもう一つの「遺産」

です。統合失調症の人は、かつては脅威の存在として残酷に描かれていました。

このような描写のため、まだ多くの人が、統合失調症の人は暴力的にちがいない

と思っています。これは、「誤解」です。

A 統合失調症の人は、他の人よりむしろ大人しいというのが真実です。彼らは、普

段もとても臆病でもろく崩れやすく、傷つくことを恐れているのです。

B しかしながら、暴力や攻撃にまつわる問題は、特に服薬の中断とドラッグやアルコ

ールの常習が付随する場合に発生することがありえます。もし自分自身や他人に

対して暴力をふるったことがあるならば、常に適切な予防策を取ることも大切で

す。

C 統合失調症を持っているということだけの理由で、その人を怖がる根拠はまった

くありません。それは間違っています。しかも統合失調症の人は自分たちが、周

囲から怖がられる存在であることや実際に恐れられていることに、とても悩み苦

しんでいるのです。

4.統合失調症を持つ家族にできること

よい家族環境は、この病気を安定させ、深刻な再発を予防するなど改善への大きな

要因になりえます。よく理解すれば共感することができます。それゆえ私たちはで

き得る限り理解するように努めなくてはいけません。そうして初めて家族のみんな

が抱いている統合失調症という重荷が軽減されるのです。

また、病者のいちばん近くにいるのは家族です。その家族から見放されたり、疎

うと

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じられては、心の支えがないのと同じです。

@ 症状を正しく理解するように学習すること

奇妙な言動が見られたら、医師の助言を求めるのが一番です。また、以下の症状

が重要になりますので注意して下さい。

人格の著しい変化

四六時中監視されている感じ

考えを上手くまとめられない

ほかの人には聞こえない声や音が聴こえる

社会的な接触を避け、著しく引きこもる

ほかの人に見えない人の姿やモノが見える

喋ることができない(発する単語が意味をなさない)

突然極端にやたらと信心深くなる

愛するものへの不合理で怒りに満ちた怖いような反応

睡眠がとれなくなったり、イライラしたりする

A 適切な医療援助を受けること

主導権をとってください。もし統合失調症の症状が起きていたら医師を訪ね

て診断や紹介をしてもらうことです。

頑固にこだわって下さい。統合失調症に詳しい医師を探してください。

医師/精神科医を援助すること

統合失調症の患者は、診察のとき自ら進んで情報を提供できないことがあ

ります。あなた自身が医師と話すようにするか、心配なことを手紙に書いて、

医師に伝えるようにしましょう。それも具体的に、そして徹底的に。あなた

の提供する情報によって、医師はより正確な診断と治療をすることができる

ようになります。

B 治療を最大限に利用すること

家族は保護や治療に関連した情報を必要としますのであなたは次のことにつ

いて医師と論議しなければなりません。

(イ)病気の症状や兆候 (ニ)起こりうる再燃現象

(ロ)病気のこれからの見通し (ホ)ほかの関連情報

(ハ)治療戦略(治療の長期的見通し)

統合失調症の人が次のことについて、情報を持てるようにしてください。

(イ) これまでに現れた症状

(ロ) 投与量をふくめたすべての投薬内容

(ハ) いろいろな治療の効果

C 再発のときの症状を認識できるように

家族や友人は「再発」の症状についてよく知っておくべきです。なぜなら症

状が燃え上がってしまうと、しばらく荒廃した状態に苦しまなければならな

くなるからです。再発時の症状は繰り返されるということを知っておくと役

に立ちます。ほとんどに共通する再発の症状は以下の2つです。

(イ) もろもろの活動から引きこもりの増加

(ロ) 基本的身だしなみがだらしなくなる

また、次のことを知っておくこと。

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(イ) ストレスや緊張が「症状」を悪化させる

(ロ) 病状は歳をとるにつれて軽くなる

D 日々の管理について

退院後も確実に治療を続けてください

医師の治療計画に同意して首尾一貫した世話(接し方・働きかけ等)をして

ください

安心感のある環境を提供してください

自宅では平和と静寂を保ってください

寛容に、そして支持的に援助してください

現実的な目標を設定できるように援助してください

徐々に自立させていってください

ストレスに対処する方法を一緒に学んでください

何かあたらしいことに挑戦するように励ましてください

E あなた自身や家族の健康管理も忘れないでください

自分自身を大切にしてください

あなた自身のプライバシーを大切にしてください

他の家族のことを無視しないでください

支持を得てください。同じような経験を持った人たちから学んでください。

参考文献:「BasicFactsAboutSchizophreniaYouthsGreatestDisabler

カナダ ブリティッシュ・コロンビア分裂病協会編

邦訳「精神分裂病を正しく理解するために〜青年を無力にする最大の問題〜」

共同作業所全国連絡会発行 萌文社発売

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1-2.躁うつ病

統合失調症と躁うつ病は二大精神病です。最近では躁だけとかうつだけなどの単極

性の気分障害が目立っています。なかでも、うつ病の人が増えています。私も、躁う

つ病っぽいところがあります。躁の時は何でも出来るスーパーマンのような気分にな

ったり、うつになると心が沈み何もやる気がなくなってきて部屋に引きこもってしま

います。

どんな病気なの

医学的には「気分障碍」というジャンルに入ります。今ではいわゆる「精神

病」には入れられていません。

読んで字のごとく、躁(ハイ状態)とうつ(ロー状態)を繰り返す病気です。

とはいえ、いわゆる、「アタシ今日躁なの〜」とか、「あの人気分が変わりや

すいね」程度のものとは全く違います。

簡単に言えば、躁の時にガソリンを使い果たし、どうにもならなくなって止

まってしまう(うつ状態になる)・・・という感じでしょうか。

躁の時は、自分ではなかなかコントロールできず、病気だという認識(病識)

もないので、治療や入院も拒否しがちです。

さらにうつになると、躁の時のことを思い出して自己嫌悪に陥り、ひどい時

は自殺未遂を図ったりします。

周りから見れば、「意志が弱いから」「自業自得」「怠け者」のように見えます

が、それは全く違い、本人の責任ではありません。

なぜなら、ストレスなどが主な原因ではなく(多少は関わりますが)、脳内物

質の分泌異常によって引き起こされる病気だからです。ですから、薬物治療が

主になります。

本にはよく「半年から1年で治るが、再発しやすい」とあります。

躁とうつを繰り返すといっても、境目がはっきりしてる人とそうでない人が

いるし、人によっていろいろ。

躁とうつの期間もさまざまですが、一般に躁の方が短いようです。

原因は、遺伝的には確率が2〜10%くらいで、いわゆる遺伝病ではありま

せん。

「遺伝する体質」がこれくらいということです。

ただ、なりやすい性格(病前性格)というのはあります。

陽気で人づき合いがよく、親切、活動的で、熱中しやすいという性格(循環

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気質)、または、完璧主義、ノーと言えない、責任感が強い、几帳面、とことん

やらないと気がすまない、すぐ自分のせいだと思う、人に気を使う、という性

格(メランコリー親和型)です。

社会的にはいい性格のはずなんですがね・・・・(ーー;)

こんな症状です

うつ病と躁うつ病が決定的に違うのが、「躁」の部分です。もちろん、原因も

違いますが・・・。

ずっと「躁」の人でも、「躁病」というわけではなく、「躁うつ病」の「躁」の

部分が長引いてるだけです。

後述しますが、躁うつ病には、T型とU型の二つがあります。T型の方が躁

が激しいものです。

T型の躁は、最高に気分がよく、やる気もあり、新しいことを始めますが、

すぐ気が変わってしまって実際の仕事ははかどりません。機嫌はとてもいいの

ですが、ささいなことで激怒します。

何週間も不眠不休で行動したり、ひどい時には、ふだんとは別人のように何

百万円ものむだな買物をしたり、暴力や性的逸脱行為をしたりします。

さらにひどくなると、「自分は皇室の直系だ」とか、「自分はすごい超能力が

ある」などの誇大妄想が出たりします。

本人は気分が高ぶっているために、自分は病気ではないと思っており、心配

して治療を受けさせようとする家族をじゃま者として見てしまい、そのため家

族もひどく疲れてしまいます。

U型の躁は社会生活を営めるくらいの躁(軽躁)で、激しく怒ったり妄想が

出たりはしません。

眠らなくても平気で、機嫌がよく、友だちとの交流も活発で、何も問題ない

ように見えます。が、単純に楽しいわけでは決してなく、イライラが募ったり

もしており、楽しそうな状態も、実はかなりのプレッシャーがかかっていたり

します。

コントロールせずに放っておくと、いずれガス欠になってうつ状態になりま

すから、注意が必要です。

さて、うつ状態はどうかというと、大体うつ病と同じようなものです。

何週間も、毎日、ゆううつな気分が続きます。朝が一番ゆううつで、夜にな

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るにつれ、軽くなるのが普通です。

食欲もなくなり、不眠になり、いやなことばかりが頭に浮かびます。

ひどい時は、ほとんど寝たきりになり、頭も動かず、さらに重症になると、

「破産してお金がない」、「恐ろしいことをした」などの妄想が出て、生きてい

ても仕方がない、と自殺する人もいます。

躁状態は起こったらどんどん進んで、一般に2〜3ヶ月以内に治まります。

しかし、うつ状態は、治療しなければ半年以上続くこともあります。

躁状態、うつ状態は、一生のうち何度か繰り返すことが多いですが、一度だ

けの人もいます。

この繰り返しは、放っておくとだんだん間隔が短くなるので、主治医の指示

通り予防薬を飲むことが大切です。

また、躁うつ病は、その状態が治った時には何の症状もなく、普通の人と変

わりません。

治れば病気でない人とどこも変わりがない(必要なら予防薬を飲むくらい)

というのが、この病気の特徴です。

他の状態としては、躁からうつ、またはその逆になる時に、一時的に「躁う

つ混合状態」になることがあります。

これは、気力がないのに体が動いてしまうなど、躁とうつの症状が混ざって

いることです。

また、急速交代型(ラピッドサイクリング)という症状があり、これは、年

に4回以上躁とうつを繰り返すものです。

躁うつ病者の5〜20%、8割が女性、年齢的には30歳以上が多いという

統計があります。

また、原因も、発病当時からラピッドだったもの、発病してから抗うつ薬な

どでなったもの、その他の理由など、さまざまな研究が進んでいます。

この場合、薬も、普通の薬の他に、気分安定薬(抗てんかん薬)を使用する

ことが多く、効果をあげています。

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【メンタルノート】

躁うつ病は、簡単に言うと上がっている状態と下がっている状態のことです。ただ、

上下の状態が少しならば、特に問題はないと思います。上下がすごく双極になれば、

問題です。最近は、躁うつ病を精神病の中に入れないで、気分障碍という人たちもい

ます。私は、気分障碍も、状態が大きく上下に振れるから分かりますが、上下の極が

半端じゃない極ですので、周囲の人たちも誰が見ても上がりすぎ下がりすぎだと分か

ります。最近は、躁だけ、うつだけの単極がありますが隠れることもあり、躁だけ、

うつだけが目立つ状態もあります。

特に気をつけないといけないのが平常時に戻る前後で当事者は、自殺する可能性も

ありますので気をつけたほうがいいです。私(SAM)も躁うつ病の気があり、特にう

つの状態では非常にきついです。また、仮面うつ病といって身体の調子が悪いといっ

て、病院に行って色々なところを検査して調べますが、結局、精神科に受診して、う

つ病だと診断されることも多いです。

躁うつ病で気をつけないといけないのは、うつと躁うつ病のうつ状態のときは、余

り励ましの言葉をかけないように気をつけてください。特に、「頑張って」という言

葉を使わないでください。日常生活動作(ADL)など洗顔、髭剃り、風呂など日常の

行動が取れなくなります。健全な家族から見れば、躁うつ

病・うつ病では身繕いもできなくなってきます。朝の起床が

出来なくなり、怠けているように見えます。躁の状態では、

運動量も増えてきますので普通に生活をしているより食事

をしていても痩せてくることもあります。うつ状態では、

安静が第一です。眠れてないことや、イライラしてきたり、

落ち込んだりの当事者が困っていることを話して、早期治

療・入院につなげてください。

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2章. 症状の悪化・再発の危険信号.

精神の当事者の皆さんは、自分が調子が悪くなって初めて精神科病院に入院して落ち着

いた頃に、家庭や病院で振り返りをして記憶を思い出したりしていませんか?覚えていて

も部分的にしか思い出せないことが多いです。家族は特に、当事者と一緒に生活している

かもしれませんし、親や娘や息子かもしれません。精神の当事者を抱える家族の皆さんは

どうしていいのか分からなくなったりしませんか。

本冊子では、当事者SAM が統合失調症を罹患してCIL(自立生活センター)下関で精神の

当事者の自立生活支援を行ってきた中で、当事者の視点から見た支援、対応の仕方、病気

の実態や、使える制度等を理解していただき、家族が精神病を発病したときのため、再発

したときのために役立てばいいなと思います。

2-1.精神症状悪化のサイン

発病を知らせるサイン(早期警告症状)は身内に統合失調症者を抱える家族の方々によっ

て発掘されてきました。ご参考までに記述しておきます。

(早期警告症状)

身繕いができなくなる(不衛生) 泣けない、もしくは過度に泣く

抑うつ その場にそぐわない笑い

奇異な振る舞い 刺激(音、光、色、手触りなどの)への日頃見られない過敏性

不合理な発言 頻繁な引越し、ヒッチハイク旅行による逃亡の企て

睡眠過剰、不眠(または2つの間の動揺) 薬物やアルコールなどの乱用

社会的引きこもり、孤立、隠遁 気絶

元々の人格の変化 奇妙な姿勢

社会関係からの撤退 人や物を直接触ろうとしない(例えば手袋をしたりする)

予期できない敵意 頭髪または体毛を剃る

過活動もしくは活動低下(または2 つの間の動揺) 自身を傷つける(自傷行為の危険性)

些細なことでも集中できず対処できない まばたきせずジッと見つめる(もしくは頻回な瞬き)

宗教やオカルトへの極端なとらわれ 爬虫類のようにじっと見つめる

意味のないことをやたら書きまくる かたくなまでのこだわり

重要な問題への無関心 言葉の独特な言い回しや奇妙な言葉使い

日常生活や活動からの撤退 触られたときの過敏さや苛立ち

学業やスポーツへの興味の低下 批判に対する極端な反応

物忘れ 喜びをあらわすことができない

財産を無くす

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2-2.再発の危険信号

当事者を抱える家族は、普段から一緒に生活する当事者が調子を崩していることを見

ているので、当事者が心配かもしれません。何か、家族が精神的におかしいなと感じた

ら、早く精神科病院に一緒に行ってください。早期治療が精神病を寛解(かんかい)さ

せます。

食欲

突然の食欲増加また

は減退

体重の減少または増

人間関係

引きこもり、または消

極的態度

度を越えたおしゃべ

治療

治療に抵抗する

治療への反発

絶えず多くの薬を求

める

自殺

死への没頭

自殺を考える

自己破壊的な行動

自殺をする遺書また

は計画を立てる

敵対行為

言葉又は身体的な脅

他者の気持ちへの強

い依存心

かっと怒り出す

物を壊す

外見

身の回りの世話または

自己管理が低下した

必要以上に飾り立て

風変わりな服装

気分

孤独感が増す

涙もろい

短気

普通ではない、または

突然起きた心配事

思考過程

心配事に気をとられ

幻覚に過度に反応す

るのが増えた

精神が錯乱したよう

に見える

思考がごちゃごちゃ

になるのが増えた

アルコールの乱用

酒量が増加した

お酒臭い息

他の薬物を求める

どんよりした目

不明瞭なものの言い

かた

SAM の再発の前駆症状

1. 眠らなくなる 5.イライラする

2. 仕事をやり過ぎ 6.落ち着きがない

3. 無口になる 7.身繕いしなくなる

4. 躁とうつの発現 8.疎外感

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3章. 精神障碍者との対応の仕方

ある日突然、家族や親族が精神病に罹患したら私達はどうしたらいいのだろうか。

まず、とりあえず家族や親族で代表を選んで精神科病院に本人なしで、精神科の医

師に相談をしてください。当事者を説得して、本人の自発的な意志の受診を出来る

ように当事者を説得することを留意してください。本人の了解なしに無理やり精神

科病院に連れて行って入院させるようなことをしないように注意してください。当

事者の説得は時間が、長くかかりますが本人の意思を尊重することを第一に考えて

ください。一生懸命に、当事者を説得すれば分かってくれます。その際に当事者の

抱える問題で説得したらいいと思います。例えば、眠れるようになる、イライラが

なくなる、声が聞こえなくなるとか話しかけてください。無理やりに、精神科病院

に入院をさせると、後で当事者との信頼関係が取れなくなります。そういう場合も、

当事者が落ち着いてきたらフォローの一言をかけてください。面会が出来るように

なったら、当事者も分かってもらえるように状態も落ち着いてきます。

3-1.躁状態の対応の仕方

@ 危険を回避する

日常生活の援助を行なう際に、安易な接近は避け、利用者を刺激するような言動

をとらないように注意する。また、介助者の何気ない言葉や口調も興奮のきっか

けとなるので、落ち着いた態度と命令口調でないやさしいしっかりした言葉で介

助者の意思を伝え、興奮の鎮静化をはかる。

A 要求の方向転換をはかる

利用者の要求や行動の激しい場合、これらを頭ごなしに禁止したり否定すること

は、利用者の欲求不満を増大させ、反発や攻撃性を強化するので、ある程度の範

囲内で許容できる代替物を提供するなどして要求の方向転換を図る。利用者への

態度は、きっぱりした態度でのぞみ、説明は手短に、わかりやすくする。

B 穏やかに対応する

暴言を吐かれることもある。[わかんないのかよバカヤロー!]と言われても落ち

着いた穏やかな態度でその迫力に物怖じしない。「一度にたくさんの話をされても

わからないから、一つずつ話してもらいたいんだけど」「うん、もう一度お願いね」

と利用者のペース、高揚した雰囲気に巻き込まれないようにする。

C エネルギーを発散させる

勝負にこだわらない1 1 で行なえるスポーツやゲームをするか本人とよく話を

して聞いてあげる。

D 日常生活行動を援助する

日常生活の行為そのものが、注意散漫や集中困難なために、行為が中途半端にな

りがちです。介助者は、利用者の興奮を助長しないように注意しながら、その行

動の不十分な点について指摘し、遂行を促したり、できないことを補う。その際、

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決して口やかましく利用者をせきたてたり命令口調になったりしないように、ゆ

とりのある言動で関わる。

E 他者とのかかわりを調整する。

状態の不安定な間は家族や周囲の人達に暴言を吐いたり、自分の都合のいいよう

に命令したりする。介助者は、利用者の状態がよくなったときのことを考え、他

者に対して「○○さん、今ちょっと調子悪いので申し訳なかったね」などのフォロ

ーをしっかり作っておく。

F 言動について話し合う

躁状態に陥っているときには、自らの言動をコントロールできないことが多い。

状態が落ち着いてきたら言動を振り返ってもらう。

G 服薬の必要性を説明する

感情高揚は服薬を中断すると再発しやすい。躁状態に陥ったことがある人は自分

の状態について、「調子があがってきた」などの認識が可能な場合が多いので、ど

のようなきっかけで感情の高揚をまねいたのか、そのときどう対処しているのか、

他の対処法は考えられなかったのか話し合い服薬の重要性も話す。

H 家族・職場への働きかけ

感情の高揚の注意信号のあらわれとなる身だしなみや口調などのちょっとした変

化に気をつけ、服薬の重要性について説明する。

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3-2.うつ状態の対応の仕方

@ 励ましは逆効果。温かく見守りましょう。

「頑張りたくても頑張れない」これがうつ病の患者さんの悩みです。そのため「頑張

って」などという励ましの言葉はよけいに患者さんを追い詰めます。ただ、温かく

見守ってあげることが何よりも励ましになるのです。

A 考えや判断を求めることはやめましょう。

患者さん自身に判断を求めることは、なるべく避け、「夕飯はカレーにしようか」

などというふうに、日常生活においてなるべく提案してあげるようにしましょう。

B 外出や運動を無理にすすめずとにかくゆっくり休ませましょう。

うつ病の治療の基本は薬と休養になります。まずはゆっくり休ませて、患者さん

のこころやからだに溜まった疲れをとってあげるようにしましょう。

C 重要な決定は先延ばしにさせましょう。

決断が鈍って、優柔不断になっている患者さんに「仕事を休職にするかどうか」と

いうような大きな決断を迫るのは患者さんを追い込みます。患者さんが決断する

までゆっくり待ってあげましょう。

D 家事など日常生活上の負担を減らしてあげましょう。

まじめで責任感の強いタイプの患者さんが多いために病状が悪くても無理して家

事などをしようとしてしまいます。なるべく、家族のほうが家事などの負担を減

らしてあげるようにしてあげましょう。

E できるだけ通院に付き添い、受診に同席しましょう。

医師により多くの情報を正確に伝えるためにできるだけ受診に同席してください。

また、医師の説明を、患者さんと一緒に受けることでうつ病への理解が深まりま

す。

F きちんと服薬をするように気をつけてあげましょう。

患者さんが症状の軽減や薬の副作用に対する不安から、自己判断で薬の服用をや

めてしまうことがあります。このようなことはうつ病の回復を遅らせるので、薬

の服用を続けるようにサポートしてあげてください。

G 気長に回復を待つことが必要です。

H 自殺の予防が最も重要です。

[死にたい]と言う言葉が出たら、冗談に聞こえても、笑顔を見せていても、決

して軽く考えず治療を進めてください。絶対自殺をしない約束を本人と交わすこ

とも必要です。この約束が自殺の大きな歯止めとなります。また、回復期無理を

して自殺を引き起こすこともありますので注意してください。

I 怠けているのではない

うつ病の方は決して怠けているのではありません。じっと静養することが必要な

のです。

J 焦らない

必ず治る病気なので家族や周りの方も決して焦らないで見守ってください。

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3-3.精神障碍につながる行動特性(昼田、1989

精神障碍者の行動特性を考えると、私的に考えると妙に馬鹿正直で、ウソをつけない、

悪いことをできない。タバコの吸殻も道端に捨てることができないなど、当事者各人の

特徴があります。

@一時にたくさんの課題に直面すると混乱してしまう

A受身的で注意や関心の幅が狭い

B全体の把握が苦手で、自分に段取りをつけられない

C話や行動に接ぎ穂がなく唐突である

接ぎ穂:途切れた話をつなぐきっかけ

Dあいまいな状況が苦手

Eその場にふさわしい態度をとれない

F融通がきかず、杓子定規

G指示はその都度、一つ一つ具体的に与えなければならない

H形式にこだわる

I状況の変化にもろい、とくに不意打ちに弱い

I 慣れるのに時間がかかる

K容易にくつろがない、つねに緊張している

L冗談が通じにくく堅く生真面目

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3-4.精神障碍者との対応の仕方(コミュニケーションのコツ)

@ 当事者の話は最後まで聞きましょう。

早呑み込みをして、途中であれこれ言うのはやめましょう。我慢して聞くことです。

A 話がちぐはぐになっても、いちいち注意しないようにして、ゆっくりしましょう。

当事者は気が散りやすいのです。

B 一度に一言だけ言うようにしましょう。

同時にいろいろ言うと当事者は理解できず、混乱してしまいます。

C 当事者がわかるように、はっきり話し伝えるようにしましょう。

あいまいな言い方をすると、当事者は言葉の意味が呑み込めないので、誤解したり、

疑ったりします。

D 言ってもわからないからと、子ども扱いしないようにしましょう。

当事者は正気で判断できる面も多いのです。

E 当事者と一緒になって興奮しないようにしましょう。

暖かく、大きく包み込んであげ、気が静まるのを手伝ってあげることです。

F 不必要な恐怖感を持たないで、つつみかくしなく、率直に話すようにしましょう

わけがわからず、怖がっているのは、むしろ当事者のほうです。

G 一歩一歩、二歩進んで一歩後退、それでも焦らず、長い目で見守りましょう。

慢性の病気ですから、治るのもだんだんです。

H 乱暴なことに対しては、はっきり注意しましょう。

当事者は自分を抑えるのが下手ですから、手伝うようにします。

I 様子がいつもと違うときは、早く主治医に相談しましょう。

当事者に限らず自分では自分のことに気がつきにくいものです。落ち着いたときに、

病気のことについて話し合っておくようにしましょう。

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3-5.幻覚(幻聴・幻視など)がある人の接し方と理論的根拠

接し方 理論的根拠

@ 他の部屋からの音(例えば近くにあるテ

レビやステレオなど)を含む周囲のあら

ゆる刺激に配慮する。

A 刺激を少なくする、あるいは当事者を別

の場所に移す。

B 幻覚が現実だと信じているような印象を

与えてはならない。「声」と対話してはな

らない。さもないと幻覚が現実であると

いう当事者の確信を強化してしまう。

C 直接的で、具体的な、わかりやすい言葉

で会話する。ジェスチャー、抽象的な言

葉、ほのめかしなどは避ける。

D 選択を迫られるような状況に当事者を置

いてはならない。「話したいですか、それ

ともしばらく一人でいたいですか」と問

うのではなく、話してみるように勧める。

E 当事者が話題にした現実的なことに対し

ては、言葉で対応する。彼らが現実を話

題にしたときには、彼らの会話を強化す

る。

F 幻覚が起こったときや、幻覚が会話や行

動を妨げたときには介助者に知らせるよ

う説明しておく。

G 幻覚状態にあると思われるときには、当

事者の注意をひきつけ、興味のありそう

な会話や具体的活動を試みる。

H 会話する際は、現実感をもたらすような単

純で基本的な話題にする。

@ 一見なんでもない刺激が幻覚を誘発、あるい

は増強する。当事者はそれに圧倒されてしま

う可能性がある。

A 刺激が減れば、誤った知覚をする機会も減

る。当事者は刺激を処理する能力が低下して

いる。

B 幻覚が現実でないことを分からせるために

は、介助者は当事者に対して正直でなければ

ならない。

C 抽象的概念を処理する患者の能力は低下し

ている。また、当事者は、介助者のジェスチ

ャーやほのめかしを正しく解釈できないこ

とがある。

D 当事者の意志決定能力は損なわれている。選

択を迫られた場合、当事者は現実に対処する

(介助者と話すこと)よりも、一人でいるこ

と(つまり幻覚状態)を選ぶだろう。

E 肯定的強化は、望ましい行動の可能性を高め

る。

F そのことは、当事者が(現実の中の)他者を

捜し、幻覚によって引き起こされた問題に対

処していくチャンスとなる。

G 現実的な活動や相互作用を行っているとき

は、幻覚に影響されにくい。

H当事者にとって、基本的な事柄について話すの

は容易であるが、複雑になるほど対処は困難で

ある。

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接し方 理論的根拠

I 容易に、かつ実際に遂行できそうな活動を用

意する(ちょっとした、あまり複雑でない工

芸など)。

J もし当事者が耐えられるようであれば、現実

感を与えるために、脅威とならないように配

慮して彼らに触れてみる。当事者にも介助者

の腕や手に触れさせる。当事者によっては、

実際に触れられることを脅威と感じる場合

があることに注意する。それぞれの当事者の

反応を慎重に評価する。

K 当事者が自分の精神病的行動に気がついた

ときに抱くことのある罪、良心の呵責、恥な

どの感情の表現を促し、それを支持する。

L 患者の行動を受け入れ、一個の人格として認

めていることを示す。当事者の行動を茶化し

たり、批判してはならない。

M 注意:必ずしもすべての当事者が自分の精神

病的行動を覚えているわけではなく、逆に自

分が何をしたのかを尋ねてくることがある。

介助者は、正直に答えなければならないが精

神病的行動の内容を詳しく話すべきではな

い。

I 長くかかる作業や複雑な作業はフラストレー

ションをもたらしやすく、当事者は最後まで

続けられないことがある。

J 介助者の身体的接触は現実そのものであり、

それは当事者が自我境界を再構築するのに

役立つ。

K 介助者が支持的で受容的な聞き手になるこ

とによって、はじめて当事者はそのような感

情を表現することができる。

L 幻覚状態から脱したとき、幻覚は病気の一部

であり、コントロールできるものではないと

当事者が理解できるような援助が必要であ

る。当事者の行動を茶化したり、批判するこ

とは不適切であり、当事者を傷つけることに

なる。

M 正直な答えは当事者を安心させる。多くの場

合、当事者は実際に示した以上のことを心配

しているものである。

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3-6.妄想がある人の接し方と理論的根拠

接し方 理論的根拠

@ 当事者とのコミュニケーションは誠実、

かつ正直であること、曖昧な言葉やごま

かしを避ける。

A 期待の設定や規則の強化などは、一貫性

を持って行う。

B 実行できない約束はしてはならない。

C 話してみるように促す。しかし、情報を

得る目的で詮索や詰問をしてはならな

い。

D 活動や計画の手順を説明し、ケアを実施す

る前に当事者がその手順を理解している

かどうかを確かめておく。

E 妄想を当事者の外界に対する知覚として

受け止める。

F 最初は当事者と議論したり、妄想が誤りで

現実でないことを納得させようとしては

ならない。

G 現実的なことを話題にして相互作用を行

う。妄想の内容を問題にすべきでない。

H 当事者の感情に対して共感を示す。そば

にいること、受け入れていることを伝え、

当事者を安心させる。

@ 妄想のある当事者は他者に対して非常に

敏感になっており、不誠実さを見逃さな

い。ごまかしやためらいは不信感や妄想

を強めてしまう。

A 明確で一貫性のある制限によって

介助構造が確かなものとなる。

B 約束の不履行は、当事者の他者に対

する不信感をますます強めてしまう。

C 詮索は当事者の疑いを強め、介助関

係を損なう。

D 当事者が活動や計画の手順をよく理解し

ていれば、スタッフにだまされているな

どと思うことは少なくなる。

E 当事者が外界をどう知覚しているかを知

り、彼らが体験している感情を理解する

ことが大切である。

F 議論は妄想的な考えを追い払うどころ

か、逆に信頼関係の成立を妨げてしまう

こともある。

G 現実をめぐっての相互作用は当事者にと

って健康的なものである。

H 妄想は当事者を苦しめている。共感によ

って、当事者を受容していること、気遣

いや、関心が伝えられる。

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接し方 理論的根拠

I 当事者の確信に対して、批判的であった

り、軽んじたり、茶化してはならない。

J 介助者は妄想を現実のものとして認めて

いると当事者に思わせてはならない。

K 当事者が妄想を疑い始めたら、すぐに介

助者もそれを疑っていることを示す。当

事者と議論はしないで、介助者が見たあ

りのままの状況を示す。

L 当事者の生活における問題として、妄想

思考について話し合う。妄想が自分の生

活を妨害すると感じているかどうかを尋

ねる。

M 当事者が何か成功したときは、肯定的な

フィードバックを与える。

N 当事者の成し遂げたことを認め、支持す

る(活動や計画の達成、責任の遂行、相

互作用の開始など)。

O 最初は介助者との1 1 の活動に、次は

小さなグループ活動に、そして徐々に大

きなグループ活動に参加させる。

I 妄想と感情は当事者本人にとって奇妙で

滑稽でもない。冗談めかしたアプローチ

をされると、拒絶された、あるいは軽ん

じられたと感じるかもしれない。

J もし、介助者が妄想を信じるようなそぶ

りを見せれば、その妄想(つまりは当事

者の病気)を強化してしまうことになる。

K 当事者は、介助者を信頼し始めると、介

助者からの疑いの表出に応じて、自分で

も妄想を疑ってみようとするかもしれな

い。

L 妄想によって引き起こされる問題につい

ての話し合いの焦点は現在であり、事実

にもとづくものである。

M 真の成功に対する肯定的なフィードバッ

クは、当事者の健康の感覚を高め、より

望ましい状況としての、妄想的でない現

実を作っていくことを助ける。

N 達成が認められれば当事者の不安は減少

し、妄想によって自尊感情を支える必要

もなくなる。

O 不信感の強い当事者でも、相手が一人で

あれば何とか対処できる。それに耐えら

れるようになってから徐々に他者との関

係を広げていくことで、脅威は減ってい

く。

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3-7.病識プログラム

1.自分の状態が悪くなるとどうなるか

不眠・多動多弁

いつもと違う(言葉で言い表せないが・・・)

生活への影響(身づくろい、ひきこもり)

周りの人に聞いてみる

本人に振り返ってもらう

2.病気について知る

通院

服薬(自分の服用している薬について知る)

病気の症状と副作用の症状

3.病気や障碍への対処法を身に付ける

安静にする

横になる

散歩

音楽を聞く

4.生活

睡眠・食事

規則正しい生活サイクル

身づくろい

対人関係のとり方

当事者が病識を持てるようになるための家族の働きかけ方

病気の受容段階〜否認→怒り→諦め→受容

タイミング〜性格、症状の度合いで小出しに、本人の気になることから気付かせる

会話術〜言葉の窓口、入り口広く、キッカケ、餌やり、におわせる

目覚めのキッカケ〜生活のしづらさ

時間をかけてゆっくり働きかける

病識トレーニング〜その人その人に色々な働きかけがある

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3-8.精神障碍者支援の社会資源

@ CIL下関(Tel:083-263-2687

自立生活支援

ILP(自立生活プログラム)

自立生活体験室

ピアカウンセリング

情報提供

権利擁護

病識トレーニング

服薬管理

金銭管理

A 人権擁護委員会

権利擁護

人権救済

病院への立ち入り検証

B 精神医療審査会

入院時の処遇改善

C 警察・消防署・地方裁判所

トラブル

精神科緊急医療システムの案内・対応

成年後見制度の利用の相談・実施

医療保護入院に際しての保護者選任

D 社会福祉協議会

相談

助言

地域権利擁護事業の相談受付及び実施

E ホームヘルパー事業所

ホームヘルプサービス

行政(市町村担当課・独立保健所etc)

による利用者状態把握・対応

病院との連携

F その他の社会資源

障碍福祉サービス事業所

相談支援事業所

地域活動支援センター

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福祉ホーム

社会適応訓練事業

公共施設

G 安定所(ハローワーク)

職業適応訓練

短期職場適応訓練

就労先紹介(障害者雇用窓口)

H 山口高齢・障害者雇用支援センター

職業相談・評価

職業準備訓練

事業所への支援

通勤同行(センターの職員が当事者と一緒に通勤同行)

生活指導(職業を持った当事者への生活指導)

I 障碍者職業センター

職業相談・評価

職業準備訓練

職業講習

職域開発援助事業

ジョブトレーニング

職場適応指導

J 市役所

福祉部生活支援課 生活保護の申請

障碍福祉支援課

K 市役所・国民年金課

障碍基礎年金の手続き、年金の免除申請

L 年金事務所

障碍厚生年金の手続き

M 共済年金事務所

障碍共済年金の手続き

N 社会保険庁

現況届け

県庁・市役所住宅課

公営住宅入居

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O 県庁・健康増進課

行政監督業務(各市町村の保健所や各精神科病院)

県民への啓発(各種シンポジウム開催、県の障害者基本計画実施etc)

P 保健所・精神保健福祉センター

入院患者・通院患者・家族からの相談

精神医療審査会

自立支援医療

精神障碍者保健福祉手帳

デイケア

Q 精神科病院

入退院

通院

デイ・ナイトケア

訪問看護

R 障碍者生活支援センター

日常生活支援

相談

危機対応

地域交流

就労支援

S 自助会(仲間との支え合い)AA、GA,断酒会、摂食障害

ピア・ハート下関(精神自助会)TEL 083-263-2687

自発的参加

継続的活動

共通の体験

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3-9.精神障碍者保健福祉手帳の制度

手帳所持者

所得税の障碍者控除 税務署・勤務先

所得税の配偶者控除、扶養控除の同居特別

障碍者控除 税務署

勤務先

相続税の障碍者控除 税務署

住民税の障碍者控除 市町村役場税務課

住民税の配偶者控除、扶養控除の同居特別

障碍者控除 市町村役場税務課

郵便貯金、預貯金等及び公債の利子所得税

等の非課税 郵便局、銀行等

贈与税の非課税 税務署

自動車税の減免 県税事務所

自動車取得税の減免 県税事務所

10 軽自動車税の減免 市町村役場税務課

11 NTT 番号案内料無料 NTT

12 65 歳以上での保健医療受給 市町村役場

13 生活保護の障碍者加算 福祉事務所

14 文化施設等利用料の減免 各施設

15 自立支援医療(通院医療費90%公費負担さ

10%自費負担) 各病院

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4章. 制度(家族が精神病を発病したらやっておくこと)

ここでは、家族が精神病を発病したら、やっておくことをまとめます。制度・手続き

などは医療と福祉の専門家PSW(精神保健福祉士)が、病院にいますので相談してくださ

い。

1.自立支援医療(初診後手続きのこと)

発病してすぐに手続きできます。医療費が1 割負担となります。

2.精神障碍者保健福祉手帳の申請(初診から半年後以降手続きのこと)

初診6 ヶ月目から手続きできます。保健所や精神科病院の精神保健福祉士(PSW)に

尋ねて下さい。PSW に尋ねれば必要書類と記入の仕方等教えてくれます。

3.当事者に面会に行く人達の対応の仕方を決めておく。

主に主治医、PSW、看護師の対応は良いとして、家族(両親・兄弟・姉妹)・親戚・友

人等の対応の仕方を予め話し合って決めておくことが望ましいです。各人の病気に対

する考え方が違うと、当事者は迷ってしまいます。ですから、当事者が病名を聞くこ

とがありますが、当事者の状態によっては伝えない方がいいので、病名の告知は主治

医から伝えてもらうようにしてください。

4.当事者の状態が安定したら以下のことを話してあげてください。

自暴自棄にならないで下さい。通院と服薬を守ってください。服薬は、再発の防止

と状態の安定に効果があります。

薬の用量・用法を守ってください。病気と障碍にベストマッチするように主治医が薬

を調整しています。

規則正しい生活をして下さい。

自助会を探して、当事者同士の交流を持ちましょう。病気と障碍を持っても社会の

中で生活している人がいます。自助会で自分の目指すお手本の先輩当事者がいるか

もしれません。また、デイケア・支援センターなどでも当事者同士の交流を持つこと

ができます。

5.障碍年金の請求

初診後1 6 ヶ月経った日の障碍認定日に障碍の状態が年金に該当する場合、障碍

年金の手続きをしましょう。以上を本来請求といいます。厚生年金・共済年金・国

民年金をきちんと納めていれば障碍年金の給付がされます。それぞれの年金から派

生して、障碍厚生年金、障碍共済年金、障碍基礎年金といい、障碍年金という独立

した年金システムではありません。また、請求には、障碍認定日から1 年以上経っ

てから請求する遡及請求(請求したときから5 年前まで請求できます。5 年を超え

るとそれ以降は時効)がありますので、本来請求とダブルで請求しましょう。

6.家族へSAM からの御願い

時間を作って週に1 度面会に来てください。毎日とは言いませんが、当事者は精神

病で入院しているので不安になっています。私(SAM)自身、家族の面会は嬉しか

ったですし楽しみにしておりました。

両親は、当事者だけでなく、兄弟姉妹にも気を遣ってください。また、両親は自分

たち自身のストレスを発散することも考えてください。家族は自分たちの時間も大

切にしてください。

退院をせがむと思いますので、病気が落ち着くまでとか、担当の主治医が退院して

いいというまでと話して下さい。病気が落ち着いてくると反対に病気が良くなるま

29

でと本人も病気に対することを真剣に考え始めます。

2,3回入退院を繰り返したら、病識を持てるようにどのようなとき調子が悪くな

るか話し合ってみてください。

服薬、通院は大切です。長期間、服薬が必要です。

通院・服薬を守っていても、年に2 から3 回調子の悪い時期がありますので注意して

ください。

病気とは、長い共存状態が続きます。障碍も残るかもしれません。病気と障碍に対

処できるように本人の仲間、医療スタッフ等に聞いたり、自分自身で工夫する事を

勧めてください。

また、精神病を患っても仕事をしていたり、障碍者運動をしていたり、社会の中で

病気や障碍と向かい合っている人はたくさんいます。闘病体験を本にしている人も

います。

【メンタルノート】

私は今だったら、精神科病院に入院したら、やらなければいけない制度、手続きや準備

等様々なことが空で言うことができますが、何も知らなければ、当事者も家族も辛い毎日

を送ることになります。ただ、私どものCIL 下関や、病院、保健所などに相談するために

足を向けてくださらないと何ともなりません。病院や保健所では福祉と医療の専門家の精

神保健福祉士(PSW)がいますので、相談してみてください。私は、自分で統合失調症の

ことを勉強して、知らないことは罪深いことだと思いました。知っていれば、統合失調症

でも仕事・生活に気を付ければ、何とか病気と障碍に対処しな

がら、自分の人生のQOL をあげて過ごしていけます。私の約

30 年前は、病気と障碍のことは、さっぱり分かりませんでし

た。そしてその当時、当事者が病気と障碍のことを知ること

は、当事者の状態が悪くなると考えて詳しく教えてくれませ

んでした。家族には、主治医が具体的に何か説明してくれた

のか、退院後聞いてみましたが説明はなかったのか、説明を

したことを理解できなかったのか、今となってはベールの中

でのことで分からないです。

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5章. 就労

私が今日まで思い悩み苦しんでいたことは、五体満足なのに過去に生活保護を受けて

生活していたことです。身体障碍者の皆さんのように身体を動かすことが出来ない場合

は仕事が出来ないのは、本人に会えば分かります。障碍者なので、病気と障碍の状態で

考えてみれば、精神障碍者も働けないのは明らかです。ところが、私が働いているCIL

(自立生活センター)下関では重度の障碍者が、ピア・カウンセリング、ILP(自立生活

プログラム)など障碍者をエンパワメントしています。重度の身体障碍者の私の上司は

「障碍者は障碍の専門家」といって、障碍者の介助のNPO を立ち上げ、障碍者ならで

はの障碍者の介助サービスを提供しています。日常生活動作(ADL)は低いですが代表

として健全者を雇って、介助者・コーディネーターを育て仕事をしています。私も、病

気と障碍に対処して、仕事をしています。私と上司・同僚の精神障碍の理解、職場環境

を整えることで、まがりなりに仕事が出来るようになりました。多くの仲間達が働ける

環境を整えてもらうことで仕事をする機会が増えています。このノウハウを参考に障碍

者が仕事をすることが出来るようになればなと思います。また、今回福祉的就労先の中

にデイケア(.稗田病院デイケアをあげました。)を入れています。通院先の病院にもデ

イケアはあるはずです。病院を退院した後、あせる気持ちがあるかもしれませんが、体

力、生活リズム、対人関係など様々なことをデイケアで身に付けてから、障害福祉サー

ビス事業所へと福祉的就労して、その後に一般就労していけばいいのではないかとか考

えます。あまり急ぎすぎないでゆっくりと確実に一般就労へと向かっていきましょう。

-1.統合失調症にみられやすい就労支援上の課題

@ 対人関係の拙劣さ

相手の感情や気持ちを察するのが下手で自分の気持ちを上手に相手に伝えられない

等の対人関係の支障、対人緊張・孤立

A 緊張の持続や疲れやすさ

段取りや力の配分がうまくできない、優先順位がつけられないなどによって生ずる。

B ストレスの弱さ、挫折のしやすさ

根深い自信の欠如などから、判断を下すことや臨機応変な対応ができない。ちょっ

とした失敗や相手からの叱責・権威的な物言いなどで、落ち込んだり症状が悪化し

たりすることがある。

C 現実検討能力の低下

できる、できないなどの判断が、現実に即してないことがある。

(自分の能力の低下や現状の認知・判断がよくできない。)

D 作業遂行動作の低下

器用さ・運動速度・計算などの能率の低下

E 活気や意欲の乏しさ

感情表現の乏しさ・平板化・無口・自主判断や行動ができにくい。

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5-2.稗田病院デイケア

精神医療も、入院中心の医療から外来中心の地域医療へと転換され、外来者サービスと

してデイ・ナイトケアや訪問看護を行う病院、診療所が増えてきました。ここでは、稗田

病院のデイ・ナイトケアについて特集します。デイ・ナイトケアは地域における精神障碍

者の生活向上と再発防止を目的として、時間を限定した通院形式(6から10 時間程度)

の治療プログラムを提供するものです。

1.デイ・ナイトケアの目的

(1)規則正しいリズムのある生活を送る

(2)友達作り

(3)円滑な対人関係の築き方を学ぶ

(4)様々な体験を通して、生活能力を高める

(5)自分を理解して、自分なりの生活ができるようにする

(6)体力を養う

2.時間と場所

(1)日時:(月)〜(金) デイケア 9:00 15:00

デイ・ナイトケア 9:00 19:00

ショート 9:00 12:00

12:00 15:00

15:00 19:00

(2)場所:稗田病院 デイケア棟

751-0856 下関市稗田中町8-18

稗田病院デイケア≪たんぽぽの会≫

Tel083251-2121 FAX083251-2122

3.対象者

在宅の精神障碍者

4.デイケアにかかる費用

各種健康保険・自立支援医療費制度が利用できます

5.利用状況:1 37 人前後

6.定員 1 48 人まで

7.利用者の変化

(1) 生活のリズムができ、規則正しい生活ができるようになった

(2) 仲間ができ、笑顔で話ができるようになった

(3) 復職や就職ができた

(4) 周囲の出来事や人に対して関心が持てるようになった

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8.デイ・ナイトケアの利用例(デイ・ナイトケアの利用法は人それぞれです)

(1) 毎日利用

(2) 曜日を決めて利用(例.2 回等)

(3) 仕事のない日に利用

(4) 好みのプログラムの日に利用

(5) 仕事が終わってから利用

9.スタッフの実際

辛いこと :連絡もなくデイ・ナイトケアに来なくなること

嬉しいこと:行事や外出等楽しい思い出ができたと利用者様より聞いたとき

就職が決まり、順調にいっていると聞いたとき

10.心掛けていること

・大きな声での挨拶と笑顔

・スタッフ、利用者でデイ・ナイトケアを作り上げていくという気持ち

・居心地がいいと思えるような雰囲気作り

11.援助していく上で何が大切か

・スタッフの意見を押し付けないこと

・利用者様のいいところを伸ばす

・集団やグループで活動することが多いが、個人個人をしっかり見て意見を尊重する

12.デイケア利用者の感じるメリット・デメリット

・メリット:生活のリズムが整う。友達ができる。外出や行事で楽しい時間が過ごせ

る。いろいろなことが体験できる。

・デメリット:利用者同士の中傷。デイケアや仲間を大切に思い過ぎてしまい、次の

ステップの一歩が出せない。

13.今後どうしたいか

たくさんの利用者様のニーズに対応できるような、幅の広いデイ・ナイトケアにした

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5-3.グリーンファーム(障碍福祉サービス事業所)

事業概要

グリーンファームは、自立支援法に伴い、平成18 10 1 日に精神障碍者通所授産施設から障碍福祉

サービス事業所に移行しました。

一般企業での就労を希望している方、または雇用されることが困難な方に対し、就労機会や生産活動を通

じて、知識や能力向上のために必要な訓練を提供し、各利用者の目標の実現を目指します。

就労移行支援事業

就労を希望する方に対して、生産活動などの機会を通じて、知識や能力向上のために必要な訓練を提供し

ます。

就労継続支援(B )事業

一般の事業所や会社などで雇用されることが困難な方に対して、就労機会や生産活動などの機会を提供し、

知識や能力向上に必要な訓練を提供します。

作業内容について

農地保全事業 農地の草刈、耕運作業、その他農地に関する受託作業

住居環境保全事業

庭除草、駐車場除草、草刈作業、住宅草刈作業

エアコンの洗浄・清掃、ガラスサッシ窓清掃作業

マンション・アパート共用部分清掃・除草作業他

加工その他事業

水稲、花卉、野菜等農産品栽培及び販売

加工販売、赤米商品販売、その他内職作業

工賃について

月末締め翌月10 日支払

時給 200 円(2012 4 1 日現在)

(農産物の売上や活動内容により増減の可能性有)

1 日のスケジュール

850900 朝礼・ラジオ体操

9001200 作業訓練

12001300 昼食・休憩

13001500 作業訓練

15001530 生活指導・ミーティング

1530 終礼・退所

34

利用までの流れ

1. 施設見学

施設について、ご説明とご案内をいたします。

2. 体験利用

実際に作業等を体験していただきます。

3. 利用契約

当方と契約をかわします。

4.利用開始

利用者さまに添って支援します。

連絡先

社会福祉法人 内日福祉会 グリーンファーム

750-0251

山口県下関市植田1398-1

TEL 083-289-5454

FAX 083-289-5455

**グリーンファームの理事長:中本英樹氏の許可を得てホームページより抜粋**

35

5-4.ひえだファクトリー(障碍福祉サービス事業所)

1.ひえだファクトリーとは

自立支援法における就労移行支援と就労継続支援B型の障碍福祉サービス事業所です。

2.設置の目的

障碍者が地域社会でより充実した生活をし、生活費の確保および就労における自立がで

きるよう就労の機会を提供し、また一般就労に向けた訓練等を提供する。

3.運営方針

事業所の役割を最大限に発揮し、障碍者の社会生活を営む上での支援サービスを提供す

る。障碍者本人の夢や思いを優先し、専門職種及び専門機関との連携を図り、多くの選

択肢を見出し、その夢に近づけるように支援していく。

4.利用対象者

・就労移行支援

一般就労を希望し、知識・能力の向上、実習、職場探し等を通じ、適性にあった職場

への就労等が見込まれる身体・知的・精神障碍者で、65 歳未満の方

・就労継続支援B型

就労移行支援事業を利用したが就職に結びつかなかった方、一定年齢に達している者

等であって、就労の機会等を通じ、生産活動にかかる知識及び能力の向上や維持が期

待される身体・知的・精神障碍がある方。

@ 企業などや就労継続支援A型での就労経験がある者であって、年齢や体力の面で雇

用されることが困難となったもの

A 就労移行支援事業を利用したが、企業等または就労継続支援A型の雇用に結びつか

なかった者

B @、Aに該当しない者であって、50 歳に達している者、または企業等の雇用、就労

移行支援事業や就労継続支援A型の利用が困難と判断された者、症状が安定してお

り、作業に耐えられる方。また、利用予定日をきちんと利用できる方

5.利用の手続き

利用までの流れ 見学→体験利用→(利用の検討)→本利用(契約)

利用と計画相談支援を申請し、障碍福祉サービス受給者証を発行してもらってください。

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6.利用の期限

就労移行支援事業 原則2 年間

就労継続支援B型 利用に期限はありません

7.利用日数

上限は当該月の日数 8

8.工賃

1 800 円〜1400 円程度(年度ごとに変更される可能性があります)

9.職員の想い

@ 嬉しいこと

一般就職に結びつき、生き生きと働いているとき

「ここに来てよかった。自信がついたよ」と言われたとき

目標の達成に近づいている時。また、それを共に確認しあえた時

A 辛いこと

工賃の向上がうまくいかないこと

作業環境を整えられず、利用者さんが苦労や工夫をしながらやっていること(辛く申

し訳なくもあり、頼もしくもあります)

B 利用者さんに対して一言

厳しい就職情勢ですが、やる気と本気を大切にしていきましょう。

目標を見失わないよう、できることを伸ばし、努力するところはしっかりしましょう。

お互いのいい所を認め合いながら、協力して働く喜びも大変さも感じていただければ

と思っています。継続は力なりです。

連絡先 ひえだファクトリー

751-0856

山口県下関市稗田中町8 18

Tel: 083-251-6161

Fax:083-251-6177

37

55.特定非営利活動法人ピースオブマインド・はまゆう

本法人は、精神障がい者を身内に持つ家族の会がベースとなって、平成17

に法人組織となりました。家族会発足の昭和61 年から数えると、四半世紀を超え

る期間を地域での障がい者の活動の場所の創設・運営や、障がい福祉について啓

発活動等に取り組んでまいりました。

いま様々な法改正等を経て、障がいを持つ人も、障がいを持たない人同様に地

域で自立した生活を送れるようにとの理念に基づいて、法の整備や制度等のソフ

ト面、設備等ハードの面の拡充が図られつつあります。まだまだ十分とは言えま

せん。これからも誰もが安心して生活できる地域づくりに向けた活動を展開して

いきたいと考えています。

1.目的

@法人の目的(定款より)

障害者基本法の基本理念に基づき、住み慣れた地域での安心した暮らしを実現

することを軸に障がい保健福祉の普及及び啓発事業を行うとともに、障がい者

福祉の施策の充実に寄与することを目的とする。

A事業の目的(法の規定による)

・就労継続支援B 型…利用者が自立した日常生活又は社会生活を営むことができ

るよう就労の機会を提供するとともに、生産活動その他の活動の機会の提供を

通じて、その知識及び能力の向上のために必要な訓練その他の便宜を適切かつ

効果的に行う。

・自立(生活)訓練…利用者が自立した日常生活又は社会生活を営むことができ

るよう一定の期間にわたり、生活能力の維持、向上等のために必要な支援、訓

練その他の便宜を適切かつ効果的に行う。

2.運営の方針(運営規程の抜粋)

@利用者が自立した日常生活又は社会生活を営むことができるよう、利用者の

意向、適性、障がいの特性その他の事情を踏まえて個別支援計画を作成し、こ

れに基づき利用者に対して障がい福祉サービスを提供するとともに、その効果

について継続的な評価を実施することその他の措置を講ずることにより利用者

に対して適切かつ効果的に障がい福祉サービスを提供する。

A事業の実施に当たっては、関係市町、他の指定障がい福祉サービス事業者そ

の他の保健医療サービス及び福祉サービスを提供する者との密接な連携を図り、

総合的なサービスの提供に努める。

3.サービス提供の対象者

自立支援法第4 条に定義される障がい者で、当法人の運営する各サービスの利

用を希望する在宅の方。

38

4.事業所の名称、事業内容及び定員、連絡先等

【法人本部】 751-0833 下関市武久町1-5-14 3 金家ビル2

пF083-254-9288

【指定特定相談支援事業所 はまゆう】住所同上 :083-250-5401

【ワークステーションほっぷ】 住所同上 пF083-250-5435

就労継続支援B

作業内容:自転車部品組立、公園清掃・除草、運動広場草刈(市委託事業)

フリーペーパーのポスティング、寺社の除草・清掃、箱折

リサイクル回収作業―等

定員:25

【ライフステーションすてっぷ】

@ 就労継続支援B 750-0026 下関市長門町10-1 長門プラザ3

пF083-232-0150

作業内容:自転車部品組立、公園清掃・除草、運動広場草刈(市委託事業)

リサイクル回収作業―等

定員:25

A 自立(生活)訓練 750-0087 下関市彦島福浦町3-4-21 ダイワビル1

пF083-250-9783

訓練内容:金銭管理、調理、軽スポーツ等、地域生活への移行や地域生活

を営む能力の向上に結び付く各種プログラム

定員:10

【野の花ひびき(定員:計30 名)】

@ひびき工房(主)〒759-6303 下関市豊浦町宇賀7427-1 пF083-776-0862

作業内容:自転車部品組立、森林公園管理業務(市委託事業)、新聞バッグ

製作、メール便配達、ペーパークラフト、リサイクル回収作業

―等

定員:15

A野の花工房(従)〒750-0317 下関市菊川町下岡枝188 пF083-287-4616

作業内容:洋菓子製造、温泉清掃作業(市委託事業)、寺社清掃―等

定員:15

5.利用期限

・就労継続支援B 型:期限はありません

・自立(生活)訓練:原則2 年間、場合によって1 年間を限り延長可能

6.その他

1 日のスケジュール、工賃規程等は事業所毎に定められています。

7.最後に

私どもの法人の運営する事業所は上記のように4 事業所・5 か所に分かれていま

すが、利用される方の思いを反映した個別支援計画に基づきながら、各利用者の

方の目標や思い、考えを実現・達成していく為に、可能な限り必要な支援や外部

関係機関とのコーディネートをしていくことが私どもスタッフの役割だという共

通認識に基づいて、日々の支援業務に取り組んでいます。

39

参考文献

@ 精神保健福祉士養成セミナー[全16 巻]

へるす出版

A[改訂]これからの精神保健福祉士―精神保健福祉士ガイドブック―

日本PSW協会 へるす出版

BICD10 精神および行動の障害 臨床記述と診断ガイドライン

監訳 道男、中根 充文、小見山 医学書院

Cうつ病・躁病を治す これで安心して“治せる”

柏瀬宏隆(著) 保健同人社

Dこころの治療薬ハンドブック2003

青葉 安里、諸川 由実代 星和書店

E改訂 精神保健福祉法詳解

精神保健福祉研究会=監修 中央法規出版

F精神障害者の障害年金の請求の仕方と解説

[財]全国精神障害者家族会連合会

年金問題研究会=編集 中央法規出版

G統合失調症と付き合う 治療・リハビリ・対処の仕方

伊藤順一郎(著) 保健同人社

Hうつ病・躁病を治す これで安心して“治せる”

柏瀬宏隆(著) 保健同人社

Iコメディカルスタッフのための精神障害 Q&A 生活支援ハンドブック

蜂矢英彦=監修 見浦 康文・藤本 豊二=編集代表 中央法規出版

J[BasicFactsSchizophrenia;YouthsGreatDisabler

カナダブリティッシュ・コロンビア分裂病協会編

[邦訳「分裂病を正しく理解するために〜青年を無力にする最大の問題〜」]

共同作業所全国連絡会発行 萌文社発売

Kメンタルヘルスマガジン「こころの元気+plus)」

NPO 法人地域精神保健福祉機構・コンボ

L「精神障害者自立生活マニュアル」 CIL 下関 吉岡利明(著)

M「家族のための統合失調症入門」 河出書房新社

東洋大学ライフデザイン学部教授 白石弘巳(著)

いろいろな参考文献を閲覧しながら執筆致しましたが絶版のものや個人的に失念した

ものもございます。そのような点につきまして、何卒ご容赦いただきますようお願い申し

上げます。

40

あとがき

本書「精神当事者を抱える家族・親族のために」の小冊子を企画立案したのは当事者の

私(SAM)のここ30 年の統合失調症(精神分裂病)の経験からです。私は、1983(昭和

58 年)の発病から入退院を4 回繰り返しました。母は、家族の中で私の統合失調症の発病

に心を痛めていました。その頃、統合失調症は精神分裂病と呼ばれていました。私は、今

は統合失調症を勉強して、何とか病気と障碍に対処して生活しています。私は、3 度目の

入退院をした後に下関の精神障碍者生活訓練施設援護寮ヒエダに入所しました。この援護

寮ヒエダは病院と社会の中間施設です。ここに2 10 ヶ月入所して地域社会での自立生

活を目指して、生活技術の習得、金銭管理、服薬管理等を自己管理できるように訓練しま

した。幸い援護寮ヒエダに入所中に一般就労しました。援護寮から通勤して1 年経った後

に、退所しました。

一般就労はCIL(自立生活センター)下関という団体です。もう10 年、今もCIL 下関で

働いています。仕事の内容は、障碍者の自立生活支援です。当初私は、またいつものよう

に、3 から7 日くらいの出勤で仕事を辞めてしまわないように体を慣らし、同僚になれる

まで短縮就労して完全就労まで4 ヶ月の移行期間を代表のK にお願いしました。私にとっ

て最後の就労のチャンスでした。それだから、私自身気合を入れて就労移行期間を過ごし

ました。援護寮ヒエダの職員も私の就労について諸手を上げてバックアップしてくれまし

た。なんとか、就労移行期間を終えました。4 ヶ月の就労移行を過ごして寮を退所して、

自立生活をスタートしました。

私は、下関で生活して12 年目を迎えます。私の下関での生活では援護寮ヒエダで「援

護寮ヒエダ新聞」、ここを退所して地域社会で自立生活をはじめて、「メンタルにゅーすヒ

エダ」の編集をしています。「メンタルにゅーすヒエダ」は8 年間編集しています。この

間、読者の要望もあり「メンタルにゅーすヒエダ」のホームページを開設しました。コン

ピューターでネットにつながっていれば検索ボックスで「メンタルにゅーすヒエダ」とす

ればホームページを見つけることができます。興味があれば、ホームページを見て下され

ば有難く存じます。(メンタルにゅーすヒエダ http://www10.ocn.ne.jp/~mental/

私は、下関で暮らして11 年が経過しました。この間、私の人生の建て直しに奔走しま

した。私が「援護寮ヒエダ新聞、メンタルにゅーすヒエダ」を編集していることは稗田病

院の職員もご存知なようで、熱心にニュースレターを読む読者も多くいます。

以上のような経緯で統合失調症の勉強をして、私の精神病とのかかわりで思うことを今

回、「精神当事者を抱える家族・親族のために」の小冊子を作ろうと、私の心の中に抱えて

いました。私自身、主治医に病名を精神分裂病(統合失調症)と聞かされて、私の人生は

もう終わりで精神科病院に一生入院するしかないと考えていました。

今私は、30 年間統合失調症と共存して生活しています。私の周りには多くの支援者、仲

間との交流で現在の私があります。ただ、私の家族は統合失調症の理解は、いまいちです。

私のことで心を痛めていた母にも結婚した私と連れ合いを見せました。亡くなった母から

は、「何時かいいことがあるから、自殺などしないで・・・・・」と私はそう言われていま

した。亡くなった母に、今回の小冊子を捧げたいと思います。また、12 年間、稗田病院に

通院しています。今の私を育ててくれた病院、施設の職員の皆様に心から感謝申し上げま

す。本当に有難うございます。

41

「精神当事者を抱える家族・親族のために」 解説

障害者自立支援法が施行されてから早6 年が経過します。その間、3 年前には歴史的な

政権交代もありました。そして、今またこの3 年間の決算ともいうべき総選挙が行われ、

新たな政権の枠組みが形作られようとしています。私たちを取り巻く障がい福祉行政も、

常に政治の流れに左右され、翻弄される事が続いています。現時点の予定では、来年度か

らは障害者自立支援法が「障害者総合支援法」に模様替えをすることになっています。私

たちを取り囲む状況は、一見では今再び歴史的な転換期を迎えているように見えます。

反面、実際に障がい、特に精神の障がいを有する当事者の方や、ご家族を取り巻く生活

にはどの程度の変化が生じたでしょうか。例えば、かつて通所していた小規模作業所が就

労継続支援B 型という名称に変わったり、通院医療費の公費助成制度が「32 条」と呼ば

れるものから「自立支援医療」に変わり、月毎の負担額が変わったりといった「目に見え

る変化」はあったかも知れません。

しかしながら、当事者の方は法律や制度が変わろうが変わるまいが、自らの障がいと向

き合いながら地域で生きていく必要がありますし、当事者を支える家族の方も同様に、本

人を支えながら、現に地域で生きているのです。そのような観点から見てみると、この6

年間、それぞれの生活そのものに大きな変化を感じることができなかった方も多いのでは

ないでしょうか。

この6 年間、もっといえばそれ以前、もはや数百年単位にまでさかのぼってみても、精

神の障がいを有する当事者の方やご家族の方が感じていると思われるものは「不変」なの

ではないかと推察します。それは、「精神障がい」というものに対する世間の理解・認知度

の低さや、そのことに起因する差別・偏見に曝されて

さら

いるという「感じ」です。そう、こ

の「理解・認知度の低さ」をどのように打開していくかというのは、ずっと課題として残

されながらも、効果的な打開策がずっと見いだせていない崩壊前の「ベルリンの壁」のよ

うな存在だと言えます。

でも、ここであえて提起してみたいのです。果たして、理解・認知度が低いのは本当に

...

世間だけなのか

.......

精神の障がいを有する当事者の方で、自分自身の障がいあるいは、障がいの原因となっ

ている精神疾患について、十分に理解・把握し、さらにはそのことを他者に説明できる人

はどのくらいいるのか。それを家族にまで拡げた場合、その割合は更に狭まるのではない

か…。

つまり、他者に理解・認知度を求める前にするべきは、まず自分たち自身

........

の理解・認知

......

度を高める事

......

ではないのか

......

人間、他人の事を理解するのはそう容易い

たやす

ことではありません。同じ言葉を話し、同じ

ような生活環境で暮らしていても、自分以外の人の事を理解するのには十分なコミュニケ

ーション等が必要です。まして、言語が違ったり、異なる生活環境で暮らしている者同士

42

だと、更に困難度が上がるのはいうまでもありません。

しかし、同じ言葉を話し、同じような生活環境で暮らしていたとしても、そこに未知の

要素が加わると、途端に後者同様の状況が生み出されます。むしろ、未知の要素が加わる

ことで、コミュニケーションを図ろうという根本的な条件そのものから目をそらし、両者

が歩み寄ることすらなく、理解しあう機を逸する可能性が高まる危険性もあるのです。

この文章で主題としている「精神障がい」あるいは「精神疾患」は、その「未知の要素」

にあたるものだと言えます。「未知の要素=理解を妨げる“障がい”」なのです。

この“障がい”を取り除く為に必要なのは何か?それは唯一つ、“障がい”そのものを

十分に理解し、それを言語で他者に説明できるようにすることです。

“障がい”を取り除き、乗り越える為には、まず自身あるいは支えている家族から見た

場合の障がい当事者の有する「障がい」あるいは「疾患」について、理解しようとする「主

体的な働き」が必要です。しかしながら、世の中に出ている多量の出版物やインターネッ

ト上の情報等の中から、どれを取捨選択すれば最も効率よく且つ効果的にそれを理解でき

るかというのは、なかなか難しい問題です。

もしもこの冊子を手にしたあなたが、少なからず「主体的な」思いを持ってこの冊子を

選択したのであれば、この問題をクリアする一助となるはずです。この冊子を入口として、

まずはいままで「未知の要素」であったであろう「精神障がい」あるいは「精神疾患」と

いうものへの理解・認知度を深め、更にそれを深めるのもよし、その前に、まずは他者と

の“障がい”を取り除く・乗り越えるための行動化に移るのもよし―。

また、主体的な思いを持たずに何気なくこの冊子を手にしたとしたら、その事をきっか

けに少しだけ主体的にいままで「未知の要素」と思っていた「障がい」と「疾患」に向き

合っていただきたいと思っています。

最終的に「ベルリンの壁」を崩壊させたものは何か?それは、一人ひとりの人民の「壁

を打ち破りたい」という思いの積み重ねではないでしょうか。それが大きなうねりとなり、

やがて未来永劫立ち続けているようにも思われた巨大な壁を崩壊させたのです。

一人ひとりの力は小さいように思えるかも知れません。しかしその積み重ねこそが、い

ま目の前に立ちはだかる「壁」をいつか打ち破る源になるはずです。

共に穴を開けましょう。

2012 12

(※文中、法律名称や印刷物等の固有名詞で使われる場合は「障害」記載を使用しています)

精神保健福祉士(所属先:特定非営利活動法人ピースオブマインド・はまゆう)

土井 健一

43

著者略歴:SAM CIL(自立生活センター)下関勤務

1959 山口県山陽小野田市に生まれる。幼少のときより周りの人たちを気にしながら生

活していた。父はアルコール依存症で、物心ついたときよりいわれのない虐待を

受ける。

1973 中学二年のときの担任の恩師より日立製作所に就職を勧められる。そのため、高

校は工業高校に進学

1978 日立製作所家電研究所に入社

1980 日立製作所京浜工業高等専門学校に進学。この学校は日立製作所に入社した高卒

の採用の社員が4 回の選抜試験を受けてクリアすれば、給料をもらいながら1

3 ヶ月全寮制で勉強できる。この頃より監視されたり、幻聴にさいなまれる。人

間関係がうまくゆかず、授業がほとんど頭に入らずうつ状態になる。学校の機械

工学科の主任教授が会社の医務室でカウンセリングを受けてみることを勧めら

れる。

1983 日立製作所家電研究所退職

1983 山口県に帰郷し、富士電機化学に就職後、統合失調症発病(4 ヶ月山口大学付属

病院に入院)、退院後うつ状態になり再入院

1985 富士電機化学退職

19851990 自宅に引きこもる。

19901994 家庭教師をする。

1994 鬱がひどくなり、家庭教師やめる。

1997 服薬しなくなり、近所に迷惑をかけ措置入院

2001 退院後、精神障碍者生活訓練施設(援護寮ヒエダ)に入寮、福祉工場ひえだラン

ドリーに勤め、病気や障害の対処法等を身につけ、「病識」に目覚める。

2002 ホームヘルパー2 級取得後NPO 法人らいとに就職

2005 「精神障碍者自立生活マニュアル」 (著)

2007 精神障碍者自助会「ピア・ハート下関」開設し、世話人となる。

2012 「精神当事者を抱える家族・親族のために」 (著)

連絡先 CIL(自立生活センター)下関

TEL (083-263-2687) FAX(083-263-2688)

751-0828 山口県下関市秋根南町 1 丁目 1-5

44

協力機関

医療法人社団 あずま会 稗田病院

751-0856 下関市稗田中町8 18

電話代表 083-251-2121

FAX 083-251-2122

医療法人社団 あずま会 支援センターひえだ

ひえだファクトリー

751-0856 下関市稗田中町8 18

電話代表 083-251-6161

FAX 083-251-6177

社会福祉法人 内日福祉会 障碍福祉サービス事業所グリーンファーム

750-0251 下関市大字植田1398-1

NPO 法人ピースオブマインド・はまゆう

751-0833 下関市武久町1 丁目5-14

3 金家ビル2F

電話番号 083-254-9288

FAX 083-250-1312__トップページに戻る